バリュー投資入門(6)バフェット2017(6)

中湖 康太

6.  バークシャーの買収活動 (下)

それではバークシャーの2017年の買収活動について見ていきましょう。バフェット/バークシャーがどのような企業を好んでいるか、どのような方針で買収しているかの具体的なイメージがつかめます。(ブルーはバフェットの言葉の中湖抄訳)

SUMMING UP:  バフェットの買収の特徴

簡単にまとめるとバフェット/バークシャーの買収の特徴をあげると次の5つになるでしょう。

1.業界トップ、又はトップとなりうる事業

2.多くは地味で堅実、自らが理解できる事業 (例外は3.の存在)

3.信頼できる経営陣 

4.内部成長・外部成長により着実かつ持続的な利益成長が見込める事業

5.妥当な価格

バフェットは恐らく派手であっても(例えばIT企業)、価格が妥当で、信頼おける経営陣が存在すれば買収を検討するでしょう。しかし、そういった企業はほとんどの場合、5の条件を満たさないのです。それらの株式は、高PER、高PBRだからです。これが成長株投資と異なる点です。

もっとも割高かどうかは端的にいえば高い利益成長の持続性、確実性についてどうみるかによります。バフェットはこれらについて慎重な見方をしています。

結果的にバリュー投資にあっては、地味で目立たない企業、又は現在、なんらかの理由で株価が低迷しているが、リカバリーが期待できる企業が買収対象となるわけです。

独立事業買収

トラベル・センター業者:PFJ買収 - 全米トップシェア

2017年に1つの妥当な個別的な独立事業の買収を行うことができた。それはパイロット・フライングJ(Pilot Flying J: “PFJ”)への38.6%の持分である。年間約200億ドルの取扱高を持つ、米国でとびぬけたトラベル・センター業者である。

PFJはハスラム家によって設立され運営されている。ハスラム家のビッグジムは60年前に同事業を創業した。現在は息子ジミーが北米750カ所、27,000人の従業員で運営している。バークシャーは2023年までに同社の持分を80%まで高め、残りの20%をハスラム家が保有することを約するパートナーシップ契約を締結している。

州際のドライブをするときには是非PFJに立ち寄っていただきたい。PFJはディーゼル燃料とガソリンを販売しており食事もとても美味しく、施設は5,200のシャワーを装備している。

補強的買収

次に補強的(bolt-on)買収について見ていこう。小さい取引については割愛し、2016年終わりから2018年初頭のいくつかの比較的大きな買収について触れておきたい。

プレハブ住宅建築:クレイトン・ホームズ - トップシェア

クレイトン・ホームズ(Clayton Homes)は2017年に住宅建築会社を2つ買収した。コロラドのオークウッド・ホームズ(Oakwood Homes)とバーミンガムのハリス・ドイル(Harris Doyle)である。バークシャーは同分野に3年前に参入したばかりだが、我々のプレゼンスを2倍以上の規模にすることができた。同買収により、2018年中に現場組立の事業規模は10億ドルを超えることになるだろう。

クレイトンの事業の中核は、プレハブ住宅の建築とそれに付随するファイナンス事業である。2017年にクレイトンは直営店で19,168戸、ホールセールで独立系小売店に26,706戸を販売した。結果として昨年、クレイトンはプレハブ住宅市場のシェアは49%となった。業界第2位競合他社の3倍で業界トップシェアを持つ。バークシャー傘下に入った2003年にはクレイトンのシェアは13%だった。

クレイトンホームズもPFJもノックスビルを拠点としてであり、クレイトン家とハスラム家は長年、親密な関係にある。ケビン・クレイトンはハスラムにバークシャー傘下に入ることの優位性を話している。また、クレイトンのハスラムを賞賛するコメントはバークシャーのPFJ買収を後押しした。

床仕上げ業:ショー・インダストリーによるUSF買収 - 持続的な収益源

2016年末に床仕上業のショー・インダストリーは高級ビニールタイルのディストリビューターとして急成長するUSフロア(USF)を買収した。USFは2017年に早くもショーとの統合効果を表し、同年に売上を40%伸ばした。USF買収により、我々は優れた人的資産と事業の双方を獲得したということが明らかになった。

ショーのCEOであるバンス・ベルは同買収を発案、交渉し、まとめあげた。ショーの売上高は57億ドル、従業員は22,000人に達した。ショーはUSF買収によって、バークシャーに持続的で重要な収益源をバークシャーにもたらした。

不動産仲介業:ホームサービス - トップレベルのシェア

急成長する不動産仲介事業を行うホームサービス社(HomeServices)について述べよう。バークシャーは2000年にミッドアメリカン・エナジー(MidAmerican Energy; 現バークシャー・ハサウェー・エナジー)の支配権を獲得したときに同事業に参入したといえる。ミッドアメリカンの事業は当時、電力ユーティリティー事業がほとんどだった。当初、ホームサービス社にほとんど注意を払っていなかった。

同社は、年々仲介業者を買収し、2016年末にホームサービスは米国で第2位の不動産仲介事業者になった。とはいえ業界首位のリアルロジィ(Realogy)には大きく引き離されていた。しかし、2017年にホームサービス社は飛躍的成長を遂げた。業界3位のロング・アンド・フォスター(Long and Foster)と、業界12位のホウリハン・ロウレンス(Houlihan Lawrence)、そしてグロリア・ネルソン(Gloria Nilson)を買収したのだ。

それらの買収で、12,300店の代理店を加え、総計40,950店となった。ホームサービス社は2017年に1270億ドルにおよぶ「両手」(“sides”)の仲介手数料を加えると、住宅販売で全米首位に迫るまでになっている。「両手」というのは、1つの取引について買い手と売り手の両方の仲介業務を行うことである。この場合、取扱高は2回計上されることになる。

しかし、最近の買収にも関わらずホームサービス社はなお全米住宅販売仲介市場の約3%を占めるに過ぎない。価格が妥当なら、今後もこの基礎的事業において仲介業者を買収していくつもりである。

耐食性部品製造:プレシジョン・キャストパーツ - (例外)理解できない分野への投資方針

最後に、買収により積み上げられてきたプレシジョン・キャストパーツ(Precision Castparts)について触れておこう。同社は、ドイツの耐食性部品製造のウィルヘルム・シュルツ社(Wilhelm Schultz GmbH)を買収した。但し詳細な説明は省略したい。というのも、私は不動産仲介業、住宅建設、ドライブインを理解するほど製造業を理解していないからだ。

人に賭ける

幸いにも、この場合に知識をテーブルの上に載せる必要はない。というのもプレシジョンのCEOであるマーク・ドネガンは製造業に精通した優れた経営者であり、その得意分野の事業は任せておけるからである。

人に賭けることは、物理的資産に賭けることよりも確かなこともあるのだ。

 

2018/8/7

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