バリュー投資入門(9) バフェット2008(1)総括1

中湖 康太

2008年の金融危機をバフェットがどうみたか

2008年の金融危機(日本でいう「リーマンショック」)の年のバフェットの株主への手紙を見てみたい。金融危機にあたって当時バフェットがどのように経済、金融資本市場、事業、投資を見ていたのか知ることは有意義である。今回は2008年手紙(2009年2月27日付け)の序論。

過去44年で最悪の年

バークシャーの純資産は2008年に115億ドル縮小し、一株当たり簿価は9.6%減少した。1965年からの過去44年間、バークシャーの簿価にとっても、S&P500指数にとっても2008年は最悪の年であったといってよい。時間が経過するにつれ、世界の金融市場で息の根を止めるような問題が明らかになってくるだろう。

政府の大規模介入は不可避。その後のインフレ懸念

米国とその他世界は、悪循環に陥り、恐怖がビジネスの縮小を招き、それがさらにより大きな恐怖を生む。この衰弱したスパイラルは政府に大規模な行動をとらせるに至った。これらのかつては考えられないような政府による資金の投入は好ましからざる後遺症を生むだろう。

その詳細な性質は推測の域を出ないが、恐らくインフレーションの猛威かもしれない。我々は過去多くの困難に直面してきた。

米国経済の先は明るい

20世紀だけをとっても2つの世界大戦、1930年の世界恐慌、1980年のプライムレート21.5%の高金利、その他10数以上のパニック、リセッションなど。しかし、我々はそれらを克服してきた。その道は平坦ではなかったが、我々の経済システムは時を経て、驚くほど良く機能したのだ。それは他のシステムが持ちえない、人類の可能性を示してきたのだ。それは今後も続くだろう。米国の最善の時が先に控えている。

シンプルに4つの目標にフォーカス

良い時であっても悪い時であっても、チャーリーと私はシンプルに4つの目標にフォーカスしているに過ぎない。

(1) バークシャーのジブラルタルのような難攻不落の財務体質を維持すること。巨額の超過流動性、控えめ妥当な短期債務、そして多様な収益とキャッシュの源泉
(2) 事業の周囲に競争優位性を高める”堀”を広げること。
(3) 新しい、そして多様な収益源を買収し、開発すること。
(4) 傑出した有能な事業経営者幹部を増やし育てること。彼らこそが長年にわたりバークシャーの例外的な結果を生み出したのである。

4つのポイント

くり返しになるが序論でのバフェットのポイントは以下の4つ。

1.2008年は過去44年でマーケット(S&P500)にとってもバークシャーにとっても最悪の年であった。
2. 政府による大規模な介入は必要である。しかし、その後はインフレに襲われるかもしれない。
3.米国経済は過去様々な困難を克服してきた。ここ数年の経済は困難な状況となるだろう。しかし、米国経済の本質は堅固で可能性に満ちており、その先は明るい
4.良い時であっても悪い時であってもバークシャーはシンプルに4つの目標にフォーカスしていくのみである。それらは、①流動性豊かで、堅固な財務体質を維持、多様な収益・キャッシュ源を保持、②コアビジネスの競争優位性を高めること(コアビジネスの周りに”堀”をつくる)、③新しく多様な収益源となる事業を買収・開発する、④有能な経営者幹部群を増やし育てる

(中湖抄訳)

古典的な貨幣数量説は当てはまらない

バフェットが巨額の政府の介入が必要不可欠としつつも、その後にインフレを予想しているのは興味深い。実際の米国経済は多額の流動性の供給にも関わらず、インフレを生ぜずに活気ある経済を取り戻しているのである。古典的な貨幣数量説が当てはまらない経済金融システムの状況にあるといえる。

シンプルに中央銀行のバランスシートを見るべき

いわゆるマネーサプライやマネタリーベースを議論しても本質はつかめない。わたしは、シンプルに中央銀行のバランスシート、中央銀行券発行量を見るべきであると考えている

バフェットのバリュー投資は貨幣数量説には左右されない

但し、バフェットのバリュー投資はそのようなマネタリーな面に着目したものではない。事業を見て、経営者を見て、バリューを見る。それが一貫した成果に結びついているのである。

以上

2018/10/1

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