仮想通貨について Thinking about cryptocurrencies
通貨に必要な「収穫逓増」(increasing return) の作用
仮想通貨について考えてみたいと思う。
Square Inc.の2Q2020 決算にみる
Fintechの代表銘柄とされるSquare, Inc. (NYSE: SQ)の2020年第2四半期の決算が、8月4日に発表された。純収入(net revenue)は、前年比64%増の19.2億ドル、粗利益は同28%増の5.97億ドルとなった。同社の主力サービスCash App ecosystemの粗利益は同167%増となった。純損失(Net Loss)は11百万ドルとなった。
同決算を受けて、株価は翌5日上昇し7.1%高の146.44ドルで引けた。販売マーケティング費用増などにより純損失ではあるものの、純収入の大幅増などを好感したものと思われる。
エコシステム Ecosystem
同社の主力サービスは、Seller EcosystemとCash Ecosystemであり、小売業者の販売業務、キャッシュ業務を支援するハードウェア、ITソフトウェアからなるエコシステム(ecosystem)を提供している。
同社の時価総額(2020/8/7))は、68.20十億ドル(約7.2兆円)、Trailing P/E 236.82、Forward P/E 294.12、Price/Sales (ttm) 12.41、Price/Book (mrq) 35.46 (Source: Yahoo! finance)となっており、高い成長期待を反映した株価となっている。
Squareの株価評価が高いとか安いとかいうのがここでの目的ではない。Squareの株価評価から、株式市場はどうやら、Fintech、Cryptocurrencyについて高い成長期待をもっているらしい、ということを前提に、すこし考えてみたい。
消費に関わるエコシステム Consumption related ecosystem
Squareのサービスは、Seller Ecosystem、Cash Ecosystemの名前から推測できるように、小売業者の販売、会計、決済、情報管理に関わる効率的な、シームレスで使いやすい、ITサービスを提供するものであると大まかにいってよいだろう。ecosystemは生態系を意味している。
これまで別々だった、消費と金融をecosystemとして統合することを一つの要素として含んでいる、さらには仮想通貨につながっていく、という期待も含まれているかもしれない。
しかし、SquareのSeller Ecosystem、Cash Ecosystemはあくまで、小売り、消費に関わるITサービスであり、Ecosystemであって、それが直ちに主要通貨にとって代わる仮想通貨になる、とは考えにくい、という感じをもっている。
その最大の理由は、現在、米ドル、ユーロ、日本円という主要通貨に働いている「収穫逓増」(Increasing returns)という作用を仮想通貨はもつにいたるには、程遠いであろう、ということである。つまり、通貨が通貨として機能するのは、ただ法律でそう定められているから、いわゆる法定通貨である、という形式的なことではないからである。
収穫逓増 Increasing Return
収穫逓増というのは、他の人が使っているから、自分も使う、他の機能にも使えるから、それを使う。しかも、それが一国のみならず、グローバルに通用する、という作用である。
Squareの四半期の純収入は約20憶ドル、年換算で80億ドル、仮に倍だとしても160憶ドル。米国のGDP個人消費が約15兆ドルとすると、その0.1%にすぎない。つまり、通貨が通貨として成り立つのは、規模の経済、範囲の経済(消費にも使えるが、貯蓄にも使える、投資の対象ともなる、といったこと)が働く必要があること、その根底にある収穫逓増という作用が無視できないのである。つまり、生半可な流通、規模では通貨にはならない。もっとも、いくつかの仮想通貨がドルや円を媒介して取引されることはあるかもしれない。しかし、なかなかそれが、主要通貨の収穫逓増の作用を切り崩すにはいたらない、ということである。
エコシステムの社会的便益 Social benefit of ecosystem
つまり、部分と全体を分けて考えることが必要ではないか、これが現段階での、仮想通貨、またFintechに対する見方である。
勿論、消費に関わるEcosystemというのは、小売り業者、サービス業者、消費者に大きな便益をもたらすものであり、社会全体にとって良いことであり、そのさらなる成長を期待しい。
以上
中湖 康太
There are a lot of talks about Fintech and cryptocurrencies based on blockchain technology recently. The share prices of the related stocks are rising, increasing the market capitalizations, based on the recent progresses and the investors’ high expectations for the future.
The key point, in my view, will be the working of increasing return. It is at work in all the current major currencies, such as US dollar, EURO, and Japanese Yen. As they are major, more people use them. As more people use them, they are major. The virtuous circle is at present in the major currencies, exercising the economies of scale and the economies of scope.
Fintech and cryptocurrencies are beneficial to the societies in the world and should be highly encouraged. Yet, for them to replace the major currencies, they need to exercise greater increasing return. Realistic scenario, in my view, would be several cryptocurrencies are complimenting the major currencies, increasing the efficiency of the consumption and the production of the world, let alone the efficiency of financial system.
I would like to watch the developments closely and act appropriately.
Kota Nakako
2020/08/08