広告から見る2017年の世界見通し- WPP Webcast(17/3/3)より
世界最大の広告コミュニケーション企業であるWPPの2016年決算コンフェレンスが3月3日にロンドンで開催された。コンフェレンスの模様はビデオ(Video Webcast)で見ることできる。2017年の広告市場動向だけでなく、デジタル化の動向、地域別の経済動向、世界経済の動向についても非常に参考になる。
市場予測のスペシャリストGroupM
2016年決算は、CFOのポール・リチャードソン(Paul Richardon)が説明したが、その後で、極めてWPPらしい、というかマーティン・ソレルらしいのは、市場予測のスペシャリスト、グループM(GroupM)のアダム・スミス(Adam Smith, Futures Director)が、2016-17年の見通しを説明するセッションを設けていることだ。
その内容について注目すべき点、印象に残った点は以下の通りである。
2016年の姿
1. 2016年のWPPの地域別売上高(Revenue)の上位6カ国は、前年比で、米国+1.9%、英国+1.8%、中国(Greater China)-0.2%、ドイツ+6.7%、オーストラリア・ニュージーランド+2.0%、フランス-1.6%となっている。米英が概ね好調。欧州では、ドイツの強さとフランスの弱さが対象的であり、EUに内在する問題が浮き彫りになっているともいえる。また、中国の不振ぶりが目立つ。2014年+7.9%、15年+2.2%に続いて、16年にはマイナス成長に落ち込んだわけである。
2. 2016年のBRICsにおけるWPPの国別売上高(Revenue)は、中国-0.2%、インド+11.2%、ブラジル-2.8%、ロシア+4.1%。中国、ブラジルが不振、インド、ロシアが好調である。ロシアは15年の-9.4%からのリカバリーとなった。インドは2桁成長とはなったが、15年の+16.9%からは減速した。
2017年の姿
3. グループMの全世界広告市場予測は、2016年が+4.3%(6月時点の+4.0%から上方修正)、2017年は+4.4%である。
新興国が牽引する広告市場の成長
4.金融危機前年の2007年を100とした広告支出は、2016年で先進諸国が92、新興国諸国は167となっている。先進諸国は今だ金融危機前のレベルまで回復していない。
EU(除くドイツ)の不振
5.EUについては、英国のみ2007年レベルを回復しているが、英国を除くEUでは80と不振が目立つ。またドイツ87、フランス82、オランダ72、イタリア67、スペイン62と地域内の格差も著しい。英国の好調さの背景には、デジタル広告の浸透の高さ、伸びがある。英国のデジタル広告は全体の50%に達しているが、それ以外のEUは30%程度となっている。英国では富の分散が進んでいるのに対して、他の欧州諸国では富が集中していることも問題の1つであるとアダム・スミスは指摘した。
シェアを高めるインド
6.2017年の世界の広告支出の伸びは、中国(+$6.2bn)、米国(+$4.7bn)が牽引することになると予想される。続くのが、英国(+$1.6bn)、アルゼンチン(+$1.4bn)、日本、インド、ロシア、オーストラリアである。インドは高成長を続けてきたが、金融引き締めにより2017年は+10%程度の成長に鈍化する。世界広告市場におけるインドのシェアは2015年の17%から16年には18%に高まると予想される。
7.先進国と新興国の広告市場成長への寄与は、金融危機後2010-15年では先進国32、新興国68と新興国が牽引したが、2016-17年は先進国46、新興国54とよりバランスしたものとなることが予想される。
8、世界の広告市場は、2017年に8年連続で回復することが予想されるが、名目GDPに占める広告市場のシェアは、2000年の0.9%から2021年には0.7%となることが(GroupMのモデルからは)予想される。これは、広告市場における新興国のシェアが高まることが一因と推定される。
デジタルが成長のドライバー
9.広告市場の成長のドライバーはデジタルである。広告市場成長へのデジタル広告の寄与度は、ポスト金融危機の2010-15年では72%であったが、2015-17年には94%とさらに高まることになると予想される。
10. 主要国における広告支出に占めるデジタル関連広告のシェアは、2001年実績、2015年実績、2020年予測でみると、
Digital as % of Total Ad Spend
2001 2015 2020E
US 1 28 36
UK 1 47 59
Germany 1 27 34
China 1 42 67
Brazil 0 7 11
Japan 2 25 33
Global 3 28 39
2017年のピクチャー: 標準シナリオとリスク要因
WPPのビデオ・コンフェレンスに参加して、描く大まかな2017年のピクチャーは、米国、中国を中心とした成長と、デジタルが牽引し、2016年に続き穏かな成長が見込まれるというものである。最大のリスク要因は、ドイツ一人勝ちの様相を呈するEUである。中国についても不透明感があるが、デジタルの浸透度が相対的に高いこともサポート要因となると期待される。
マーティン・ソレル(Martin Sorrell) – 持株会社CEOのモデル
最後に、WPPとそのCEOマーティン・ソレルについて一言述べておこう。WPPは、投資銀行調査部の証券アナリスト時代に電通、博報堂DY、アサツー・ディ・ケイ等日本の広告会社との比較の観点から調査の対象としていた。ビデオ・コンフェレンスであらためて感じたのはCEOマーティン・ソレル(Martin Sorrell)の健在振りである。
マーティン・ソレルは持株会社のトップとしてベンチマーク、良きモデルとなる人物である。WPPは、多数の広告会社、広告関連企業を傘下に持つホールディング・カンパニー(持株会社)である。マーティンの素晴らしさは何といっても持株会社CEOとして数字に強いこと。数字でグループ全体と部分をとらえる、市場動向をつかむ、競争企業との比較を行う、財務を律する、自社の強みと課題を把握する、リスクをコントロールする。その上で、現場にも足を運ぶ。実業のディーテイル(詳細)の精通ぶりにも驚かされる。そして、戦略と目的を明確化する。
マーティン・ソレルはM&Aの手法を駆使してWPPを成長させ、世界の広告トップ企業に仕立て上げた。企業のトップ、特に持株会社CEOはこうありたいと思わせる。
以上
2017/3/13