「石油価格の動きとエネルギー投資のリスク」(JAI, Spring 2017)
「石油価格の動きとエネルギー投資のリスク」“Oil Price Movements and Risks of Energy Investments”, GREGORY BROWN, RAYMOND CHAN, WENDY Y. HU, AND JIAN ZHANG, THE JOURNAL OF ALTERNATIVE INVESTMENTS, SPRING 2017
本論文は、石油価格、エネルギー価格、公開エネルギー株式、エネルギーPEファンド投資のリスク・リターンに関する、2000年第1四半期から2015年第2四半期をサンプル期間にとった実証研究である。以下、簡単にその内容を紹介しよう。(詳細、正確には原典参照のこと)
エネルギーPEファンドが提供するリスク・リターン特性
エネルギーPEファンドへの投資は、公開エネルギー株への投資に比べて石油価格と低い相関を持ち、かつ中期的には、石油(WTI)価格変動に対してアップサイド、ダウンサイドでより高くなるコンベックス(凸)性を示している [横軸にWTIの3年間移動平均リターンをとり、縦軸に、エネルギーPEのTWRR (Time-Weighted Rate of Return: 時間加重収益率)と公開エネルギー株式リターンの3年間移動平均をとっている]。
公開エネルギー株式投資との比較
大まかに言えば、エネルギー価格変動(GSCI-Eで測った)と、これら投資リターンはリニアの関係にある。しかし、より詳細に見ると、エネルギーにフォーカスした株式リターン(公開株式、PE)とWIT価格の関係はコンベックスになっている。これはエネルギーにフォーカスした株式投資は米国石油価格のアップサイドを獲得していることを示す。この効果は公開株式よりも、エネルギーPEにより顕著であり、プライベートPEファンドのリターンが、サンプル期間で、公開株式(public equity)のリターンを上回っていることを部分的に説明している。
限られたデータとPEファンドの四半期レポーティング
ただし、注意すべきは、エネルギーPEファンドが、相対的に新しい投資カテゴリーであるという点である。エネルギーPEファンドのヒストリカル・データは限られており、また、結果は、サンプル期間の事象に基づき生じている。また、この期間のエネルギー価格変動の程度は、特殊なものであったかもしれない。さらに、PEファンド・バリュエーションの四半期レポーティングによるノイズまたは遅れにより、不明確でぼやけたものになっているかもしれない。
リアル・オプション・バリュー
このような効果を生み出す理論的な理由が推定される。エネルギーPEファンドは、公開エネルギー株式に比べて、石油価格のアップサイドをとりうる投資プロファイルを持っているかもしれない、ということである。例えば、ポートフォリオ構成銘柄のオペレーティングレバレッジと柔軟性は、PEストラクチャーにおいて、リアル・オプション・バリュー(不確実性に対して柔軟に対応する能力、その価値;中湖注)を生み出しているかもしれない。
オプションのポートフォリオの価値 > ポートフォリオのオプションの価値
言い換えるならば、エネルギーPEファンドは、ポートフォリオのオプションというよりオプションのポートフォリオの性質を持っているということである。前者は、一般的にオプションのポートフォリオより低い価値をもつことが知られている。PEファンドの投資タイミングと財務レバレッジは、よりコンベックスなリターンを生み出しうるオプションと捉えることが可能かもしれない。
エネルギーコモディティへの直接投資
総括すると、エネルギーに関連するこれらの異なる投資戦略は、異なるリスク・リターン・プロファイルを提供している。エネルギー価格への短期的な投機的なエクスポージャーを求める投資家は、直接的なエネルギーコモディティへの投資にフォーカスすることで恩恵を受けたかもしれない。
公開エネルギー株式への投資
中期的な視点からエネルギーへのエクスポージャーを求め、強い流動性選好(liquidity preference)を持つ投資家は、エネルギーセクターの公開株式への投資で恩恵を受けたかもしれない。
エネルギーPEファンドへの投資
より高いリターンと分散を求めると同時に、より低い流動性を許容する、長期的な視点を持つ投資家は、エネルギーPEファンドにより多く配分することで恩恵を受けたということが言えるかもしれない。
私見(中湖)
最後に、本論文を読んだ一投資家としての感想を簡単に述べたい。同論文には、1986年6月から2015年6月までの30年にわたる、石油(WTI)、GSCI-E(エネルギー関連商品価格指数)、ENG-VW(エネルギー関連時価総額加重株価指数)の変動が掲載されている(出所: Ken French’s website for the period June 1986 to June 2015)。これによれば、同論文が指摘するようにコモディティ(WTI、GSCI-E)の価格変動に対して、ENG-VWの変動が小さく、アップサイドのポテンシャルに参加できると同時にダウンサイドリスクを制限することができることを示している。これも、上述のコンベクシティに関連しているといってよいだろう。言わずもがなであるが、ポートフォリオ分散によるリスクの減少とリターンの改善、つまりはシャープレシオの向上と、ミスプライス(コモディティの行き過ぎたプライスリアクション;オーバーシュート/アンダーシュート)の可能性という意味で、3つの投資対象は興味深い機会を提供していると言えるだろう。
以上
2017.4.12