Notes on Ricardo’s Principles 57 Wages 10 賃金 – revised

中湖 康太

賃金が上昇しても商品の相対価値は変化しない

【コメント】 リカードは、「賃金の上昇により商品が騰貴するということは、明らかな矛盾を認めることになる。一方では、金は需要増の結果として相対価値が上昇するといい、他方では、金は、諸価格の上昇により相対価値が下落するといっているからである。」と述べる。

 これは何を意味するのか。賃金上昇の背後には、富と資本の増加、商品への需要増がある。それにともなって貨幣量が増加する。これは取引動機に基づく貨幣需要の増加である。その貨幣価値の裏付けとなる金が生産される。リカードは金を貨幣価値の裏付けとしていると推定される。それは、「紙幣は、金価値に一致しており、また一致すべきだからである。従って紙幣の価値は、これらの原因が、金の価値に影響を与える限りにおいて、影響されるのである」と述べているからである。

 ここでのリカードの主張の趣旨は、以下のように推定される。取引動機を背景にした貨幣需要の増加にしたがって貨幣供給も増加する。貨幣価値の裏付けとなる金が生産される。したがって、賃金の上昇は、商品の相対価値の変化をもたらすものではない。リカード経済学の本質が、裁定であり、分配論であることを示すものでもあろう。

(訳)
賃金が上昇するのは、一般的には富と資本の増加が、労働への新たな需要を引き起こすためである。それは、必ず商品の生産の増加を伴う。これらの商品を流通させるため、物価が同じであっても、より多くの貨幣が必要になる。貨幣のもとになる海外の商品も必要になる。その商品は輸入によってのみ手に入れることができる。ある商品がより多く需要されるときは、その交換の対価として支払われる商品に対して、その相対価値が上昇する。例えば、より多くの帽子が必要になったとき、その価格は上昇し、より多くの金がそのために費やされる。もし、より多くの金が必要になると、金価格は上昇し、帽子の価格は下落する。それは、より多くの帽子が、同じ量の金を購入するために必要になるからである。しかし、ここで仮定したケースにあるように、賃金の上昇により商品が騰貴するということは、明らかな矛盾を認めることになる。一方では、金は需要増の結果として相対価値が上昇するといい、他方では、金は、諸価格の上昇により相対価値が下落するといっているからである。これら2つは全く相容れない効果である。様々な商品価格が上昇するということは、貨幣の相対価値が下落したというのと同じである。金の相対価値が測られるのは、諸商品だからである。もし、全ての商品の価格が上昇したとすると、それらの商品を購入するための金が海外から輸入されるということはない。金は国内から得られるであろう。それにより相対的に安い海外の諸商品を購入することができるからである。一方で、賃金の上昇は、諸商品の価格を上昇させることはないかもしれない。貨幣を鋳造するための金属は国内でも生産できるし、海外でも生産できるからである。貨幣量の増加無くして、全ての商品価格が同時に上昇することはない。 貨幣量の増加は、すでに示したように、国内で生じることはない。また、海外から輸入されるものでもない。海外から追加的な金を購入するためには、国内商品が、安くなければならない。金の輸入と、金と交換される国内で生産された商品の上昇は、相互に相容れない矛盾した効果である。紙幣が広く使われているからといって、この問いの本質が変わるわけではない。というのは、紙幣は、金価値に一致しており、また一致すべきだからである。従って紙幣の価値は、これらの原因が、金の価値に影響を与える限りにおいて、影響されるのである。

When wages rise, it is generally because the increase of wealth and capital have occasioned a new demand for labour, which will, infallibly be attended with an increased production of commodities. To circulate these additional commodities, even at the same prices as before, more money is required, more of this foreign commodity from which money is made, and which can only be obtained by importation. Whenever a commodity is required in greater abundance than before, its relative value rises comparatively with those commodities with which its purchase is made. If more hats were wanted, their price would rise, and more gold would be given for them. If more gold were required, gold would rise, and hats would fall in price, as a greater quantity of hats and of all other things would then be necessary to purchase the same quantity of gold. But in the case supposed, to say that commodities will rise, because wages rise, is to affirm a positive contradiction; for we first say that gold will rise in relative value in consequence of demand, and secondly, that it will fall in relative value because prices will rise, two effects which are totally incompatible with each other. To say that commodities are raised in price, is the same thing as to say that money is lowered in relative value; for it is by commodities that the relative value of gold is estimated. If then all commodities rose in price, gold could not come from abroad to purchase those dear commodities, but it would go from home to be employed with advantage in purchasing the comparatively cheaper foreign commodities. It appears, then, that the rise of wages will not raise the prices of commodities, whether the metal from which money is made be produced at home or in a foreign country. All commodities cannot rise at the same time without an addition to the quantity of money. This addition could not be obtained at home, as we have already shewn; nor could it be imported from abroad. To purchase any additional quantity of gold from abroad, commodities at home must be cheap, not dear. The importation of gold, and a rise in the price of all home-made commodities with which gold is purchased or paid for, are effects absolutely incompatible. The extensive use of paper money does not alter this question, for paper money conforms, or ought to conform, to the value of gold, and therefore its value is influenced by such causes only as influence the value of that metal.

Kota Nakako

2019/2/14
2019/2/16 revised

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