ITバンクのパンデミックへの対応(ノベル)
ITバンクのパンデミックへの対応(ノベル)
最大の防御は現金
孫子正太郎は、パンデミックへの最善の対策は、防御、守りを固めることであり、それはすなわち現金を積み上げることだと語った。正太郎は、ITバンクは事業会社ではなく、投資会社であるとしている。ITバンクの投資上場有価証券の時価総額は28兆円に上る。それに対して純有利子負債は6兆円。その差額である、22兆円が株主価値である、と正太郎は言う。これに対してITバンクの株式時価総額は11兆円である。つまり、ITバンクは、正太郎が言う株主価値の二分の一が市場がつけたITバンクの株価評価ということになる。正太郎は、ITバンクは本質的株主価値に対して50%のディスカウント、割安に評価されている述べた。
出門は、その物言いに、正太郎の苛立ちを感じた。おそらく、この説明会の機関投資家たち、またメディア、報道機関の記者たちも同様に感じたであろう。否、そこには、「ITバンクの本当の価値は俺にしかわからない、諸君は今にそれを知ることになる」という孫子正太郎のITセクターの先行者たる自負がある、ということも言えるかもしれない。いずれにしても、正太郎は、ITバンクは市場において過小評価されていると考えているわけだ。
解散価値
正太郎のいう株主価値は、ITバンクの解散価値を示している。事業会社でなく、投資会社であると言っているわけだ。そして、解散価値が市場価格の2倍ある、ということは、直ちに保有資産を売却し、株主に現金配当し解散することが理に適っているともいえる。しかしながら、正太郎は保有株式の売却益に対する税金を考慮していない。34%の法人税等を差し引いて評価することが適切だろう、と出門は考えた。ITバンクの保有市場性有価証券の税引後の価値は22兆円でり、正太郎の論法からすると、そこから純有利子負債6兆円をひいた16兆円が、税引き後の株主価値であり解散価値ということになる。
ITバンクの市場価値11兆円は、その税後株主価値=解散価値の30%の割安ということになる。このような資産ベースの価値評価は、ゴーイングコンサーン(永続企業の前提)ではなく、解散価値を前提にしている。つまり、もし、正太郎の論法が正しいとすると、ITバンクは保有上場有価証券をすぐさま売却し、その資金で株主に現金配当、または自社株買いをし、株主に現金還元することが論理的かつ適切な選択肢のひとつであるということになる。
(続く)