ITバンク・フォアサイト・ファンド(ITFF) (ノベル)
ITバンク・フォアサイト・ファンド(ITFF) (ノベル)
巨額ファンド(ITFF)の立ち上げ
孫子正太郎のITバンクグループは数年前、ITバンク・フォアサイト・ファンド(ITFF)を立ち上げた。正太郎のITセクターでの投資のトラックレコード(実績)は目を見張るものがあった。インターネットポータル最大手のリリパット、現在の通信大手3社の一角、ITバンクモバイルのベースとなった東亜テレコムへの投資、そして何よりも2004年の中国のEコマース最大手のバッリカへの約20億円のベンチャーキャピタル投資の成功があげられる。バッリカの株式時価総額は円換算で80兆円にも達している。香港、ニューヨークへの上場前には3割強を保有していた。上場後、一部売却、今回のパンデミックへの防御策として現金を積み上げるため、さらに2%程売却したが現在も約20%を所有している。その持分価値は約16兆円にのぼる。
集まった巨額の資金
このようなITセクターへの投資の目利きに世界のソブリンファンドなどの巨額基金、巨大IT企業を中心としたキャッシュリッチ企業が目につけた。正太郎は、ITセクター投資のスターとなった。ITバンクグループがフォアサイトファンド構想をかかげると、おもしろいように、またたくまに10兆円超の巨額の資金が集まった。
正太郎は、世の期待、それも世界のなだたる富裕層、先端巨大IT企業家たちが自らに示した評価に身の引き締まる思いがする、と同時にIT革命を推し進めるという構想からすれば、この程度の資金は当然だ、と考えた。しかし、無意識のうちに正太郎は有頂天にもなっただろう、と出門は考えた。「自分が構想を立ち上げれば、世界の名だたる投資家、企業家が俺を頼りにしてくる」。このような気持ちが芽生えてもおかしくはない。それが人間の常というものだ。
遊ばしておくわけにはいかない
資金が集まった以上、遊ばしておくわけにはいかない。正太郎は矢継ぎ早に投資案件をリストアップし、次々と投資を実行した。それは性急にも見えた。勿論、正太郎はひらめきだけでは投資はしない。ITテクノロジーの動向、IT社会の進展の速度、キャッシュフロー、リスク、等々、投資にあたってのすべきチェックポイントは抑えたつもりである。しかし、いかんせん「兆円単位の勝負」になれた正太郎とはいえ、自らが目配せできる範囲は無限ではない。それは、正太郎の目の届く範囲を超えていただろう、と出門は考えた。
OurOfficeが経営難に陥ったのは、やはり正太郎の目が行き届いていなかった、といわれても仕方がないであろう。OurOfficeのビジネスモデルも、確かにネットでのマッチングを行うという意味ではインターネット企業であり、ユニコーン企業のひとつといえるかもしれない。しかし、本質的には、リアルのオフィスレンタルビジネスと大きな違いはない、との見方もあった。そこへ、追打ちをかけたのがパンデミックである。皮肉なことにパンデミックによるテレワークへのシフトでオフィス需要は大幅に落ち込んだ。OurOfficeはさらに苦境に立たされた。
目配りが効く範囲を超えた投資
ITバンクグループが成功した投資は、バッリカがまさにそうだが、ITバブルが崩壊し、ITバンクグループが苦境に立たされる中、逆風下にあって、正太郎がいうように手がねでコツコツと投資したものであった。ITバンク・フォアサイト・ファンドは、正太郎の目の届く範囲を超えていた面があるのは否めない、と出門は考えた。
(続く)