ヘッジファンド悪玉論再考: JAI 2018夏号読む(3)

中湖 康太

ヘッジファンド悪玉論について(“Reconsidering Hedge Fund Contagion” Richard Sias, H.J. Turtle, and Blerina Zykaj)

第三の論文は、2007-2008年の金融危機(日本では通称「リーマンショック」と呼ばれる)と2007年のクウォンツ危機時におけるヘッジファンドの影響を検証したもの。

金融危機時に必ず出るヘッジファンド悪玉論

問題が起こったときにわかりにくいもののせいにしたがるのは人間の常といってよいだろう。株式市場、金融市場も例外ではない、というより一般人にはなじみがない故に、その傾向はより顕著である。

2007年クウォンツ危機と2008年金融危機(リーマンショック)

2007年のクウォンツ危機時にでたのが、高度の数学的手法を用いてコンピューターによる取引を行うクウォンツ悪玉論である。2007-08年の金融危機時(いわゆる「リーマンショック」)にはレバレッジやショート(空売り)を活用する非伝統的な取引を行うヘッジファンド悪玉論がでてきた。

ブラックサースデー(1987)、アジア通貨危機(1998)でもあった悪玉論

非伝統的投資手法、トレーディングを悪玉とするのは、これが最初ではない。1987年のニューヨーク株式市場の暴落時(ブラックマンデー)にはプログラムトレーディング悪玉論があった。1998年のアジア通貨危機時にもヘッジファンド悪玉論がでた。

確証無し

同論文は、1) ヘッジファンド汚染、2) ヘッジファンドによる特定の集中的取引による混み合いを起因とする金融市場の機能不全(hedge fund crowding)、3) 2007-8年の金融危機におけるヘッジファンドの役割、4) 2007年8月のクウォンツ危機におけるヘッジファンドの役割について評価している。

その結果、社会一般通念、メディアによる解釈、多くのアカデミックな論文とは異なり、ヘッジファンドが市場全体に伝染するような悪影響を市場に生じさせたという証拠は見いだせなかった。

建設的でないヘッジファンド悪玉論

バブル崩壊の引き金となったのが、資産価格が行き過ぎていることに着目し、取引を執行したクウォンツやヘッジファンドなどの非伝統的手法だったとしても、それらを悪玉にすることはあまり建設的な議論とは言えないであろう。

むしろ、クウォンツやヘッジファンドは、株式市場の非効率性(アノマリーなど)やミスプライシングを発見し、裁定する機能を果たしているとも言えるのである。

アジア通貨危機の本質は人為的な通貨高

例えば、アジア通貨危機は、ドルペッグ制の採用により、実力以上の通貨高が生じ、経常収支赤字に陥っていたアジア通貨の下落によって生じたものである。

繰りかえされるバブルの生成と崩壊

歴史上有名なバブル崩壊、金融危機には、1637年オランダのチューリップバブル、1720年英国の南海泡沫事件、1790年英国の運河バブル、1846年英国の鉄道バブル、1929年10月24日のニューヨーク株式市場大暴落(いわゆるブラック・サースデー)などがある。これらのバブルを生じさせるにいたった人々のユーフォリア(過度の楽観、熱狂)や過度の悲観を生じる人間の行動にむしろ注目すべきだろう。これは行動経済学に関係する領域でもあり、また技術的には投資手法の問題でもある。

ロングオンリーの問題の克服として出てきたヘッジファンド

そもそも、ヘッジファンドは、ロングオンリー(買いのみ)の伝統的投資手法の制約や問題点を克服するためにでてきた投資手法である。ロングオンリーの投資でもユーフォリアが覚めた時に売り一方になり暴落を生み出すのは上記の歴史的バブルとその崩壊が示すところである。

適正な資産価格を見きわめる

バブルは崩壊すべくして崩壊したと考えれば、非伝統的投資手法を責めるよりも、適正な資産価格を見きわめること、行き過ぎた楽観、悲観があるとすればそれに着目する、見きわめることが個々の投資家にとってはより重要であろう。

以上

2018/9/23

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