‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ

Notes on Ricardo’s Principles (18) – 価値 17

2015-09-04
賃金の変化は商品の価値に影響しないという意味リカードは、他の条件が一定であれば、賃金の変化は、商品の価値に影響を及ぼさないと述べる。これは、労働投入量が同じであれば、価値は変化しない、という労働価値説である。、別の見方をすれば、(均衡において)賃金が上昇すれば、それに応じて利益率が下がり、下落すれば利益率が高くなり、商品の価値(終価)に変化は生じないと解することができると推定される。これを、数値例で示すと下記のようになるであろう。数値例(KN推定)(ケース1) £40/人x 50人 x (1 + 0.10) = £2200 (賃金£40/人、利益率10%)(ケース2) £40.74/人 x 50人 x (1 + 0.08) = £2200 (賃金£40.74/人、利益率8%) 「賃金の上昇・下落で商品の価値は変わらないという原則。但し、耐久性の異なる資本、回収期間の異なる資本が投下された場...
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Notes on Ricardo’s Principles (17) – 価値 16

2015-09-02
リカードのいう「価値」は終価(Final Value)リカードは、ここで資本の使用が価値に及ぼす影響について述べる。リカードの説明は、資本の時間的価値に該当するものである。リカードの数値例では、資本、賃金は期初に投下、支払われものとされ、「価値」というのは、現在価値(present value)ではなく、終価(final value)である。今日のファイナンス理論では、価値は、現在価値で比較されるのが標準であり、その意味で奇異に感じられるが言わんとすることは同じである。また、労働については、単年度で費消されるものであり、インプットコストとみなされている。「ある商品の生産のために、1年目に20人を£1000(=£50 x 20)で雇ったとしよう。1年目の終わりに再び、もう1年、同じく20人、£1000で雇い同じ商品を生産する。そして、その商品を2年目の終わりに市場に供給したとする。もし、利益...
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Notes on Ricardo’s Principles (16) – 価値 15

2015-09-02
労働の限界生産力の上昇が賃金の上昇に繋がると解すべき以下のように、リカードは、賃金の変化よりも、労働投入量の変化が、重要であると述べているが、実は、機械の導入による生産性向上が労働の節約に作用し、商品の相対価値に影響することを強調していることに留意すべきであろう。リカードはここで、賃金の変化と労働投入量の変化(これは、労働・資本比率の変化といってもよいであろうか)、を独立のものとして述べているが、実は、資本導入による生産性向上による、労働の限界生産力の上昇が賃金の上昇に繋がる、と見るべきではないだろうか。つまり、労働生産性が商品の相対価値に与える影響を述べている、と思われる。賃金の変化より労働投入量の変化が重要というリカードの主張「このように、賃金の増減が、商品の相対価値に与える影響は限定的であるが、労働量の増減は、商品の相対価値に大きな影響を与える。例えば、穀物を生産するために必要な労働...
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Notes on Ricardo’s Principles (15) – 価値 14

2015-08-31
賃金上昇の穀物と工業製品の相対価値に与える影響: 数値例の解明リカードは、引き続き、労働の価値の上昇(賃金の上昇)が、生産に関して労働・資本比率の異なる、穀物と衣料、綿製品の相対価値に与える影響について数値例を交えながら論をすすめる。結論から言うと、以下のようになるであろう。リカードは、前述のパラグラフから進んで2年目の生産について、賃金の上昇によって、利益率が10%から9%に下落すると述べている。製造業者の労働・資本比率も示しておらず、ある意味では、唐突な数値例である。また、リカードは、生産要素間の代替可能性について言及していないが、ここでは、労働・資本の代替可能性を前提に、均衡において、労働と資本の収益性(利益率)が等しくなることを仮定し数値例を解釈することにした。(筆者の能力不足から、リカードの意図するところを正確に示しているか、不安である。論を進める中で必要に応じて修正することとし...
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Notes on Ricardo’s Principles (14) – 価値 13

2015-08-30
リカード経済学が論理的かつ実践的な理由リカードの叙述には、しばしば数値例使われる。マーシャルによれば、リカードの説明は、その前提等が省略されて進められる等、不完全であることがしばしばである。しかし、マーシャルはそういった説明不足を補って解釈すると、リカードの数理的、論理的抜け目のなさは、高等数学が使われるわけではないが、その後継者たちに比べて群を抜いている趣旨のことを述べている。リカード経済学が、論理的かつ実践的であるのは、経済学者であると同時に、実務家、投資家であるリカードのこのようなアプローチのゆえであるといってよい。資本の論理リカードは、ここから、機械(資本)を使わない農業と、機械(資本)を使用する衣料・綿製造業者を例にして、「資本の論理」について語り始める。資本には耐久性がある(単年で費消尽くされない)故に、複数年で比べた場合に、より多くの価値を生み出すのである。価値が増殖する、と...
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Notes on Ricardo’s Principles (13) – 価値 12

2015-08-29
賃金の変化、労働・資本比率と商品の相対価値流動・固定資本比率リカードは、ここで賃金の変化が商品の相対価値に与える影響について述べる。まず、資本投下量は同じだが、流動・固定資本の比率が異なる場合を取り上げる。この場合、賃金の上昇は相対価値を変化させると述べる。「2つの取引を考える。それぞれ同じ量の資本が投下されるが、流動・固定資本の比率が異なっている。1つの取引は、労働に関連してほとんど流動資本は使われず、主として機械、備品、建物等の、固定的・耐久的な資本に投資される。もう1つの取引は、同じ量の資本が投下されるが、主として労働を助ける流動資本に投下され、機械、備品、建物等の固定資本には投資されないとする。この場合、賃金の上昇は、双方に異なる影響を及ぼすことになるであろう(相対価値は変化する: KN注)」Two trades then may employ the same amount of...
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Notes on Ricardo’s Principles (12) – 価値 11

2015-08-28
Section IV 機械、固定資本が相対価値に与える影響リカードは、機械、固定・耐久性資本の商品の価値、商品間の相対価値への影響について述べる。「商品の生産に投入される労働量が相対価値を規定するとの原則は機械、資本の使用によって大きく修正を受ける」The principle that the quantity of labor bestowed on the production of commodities regulates their relative value considerably modified by the employment of machinery and other fixed and durable capital.「道具、備品、建物、機械の耐久性は様々。要求される労働も異なってくる。労働をサポートする資本と、道具、備品、建物、機械に投下される資本の比率には...
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Notes on Ricardo’s Principles (11) – 価値 10

2015-08-27
貨幣の登場労働投入量が商品の相対価値を決める(続き) リカードは続けて、サーモンと鹿の例をあげ、商品の価値は労働の投入量によって変化することを述べる。「もし、同じ労働でより少ない魚(サーモン)、又はより多くの獲物(鹿)が獲れたなら、鹿に対して魚の価値が上がることになる。逆に、同じ労働で、より少ない獲物、より多くの魚が獲れたなら、魚に比して獲物の価値が上がることになる」If with the same quantity of labor a less quantity of fish or a greater quantity of game were obtained, the value of fish would rise in comparison with that of game. If, on the contrary, with the same quantity of la...
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Notes on Ricardo’s Principles (10) – 価値 9

2015-08-26
「相対価値は変わらない」とは「資本の使用により、ある商品の生産の効率化(労働の節約)が行われたとしても商品の相対価値は変わらない」と述べる。この場合、「相対価値は変わらない」というのは、あくまで、「相対価値は商品の生産に(直接的であれ、間接的であれ)投入された労働によって決定される」という意味である。前段で、述べたように、労働投入量が減少すれば、その商品の価値は下がると、リカードは言う。「相対価値は変わらない」という表現はミスリーディングである(誤解を生み安い)といえるだろう。相対的な労働投入量が変れば、相対価値は変化するのである。但し、さらに深く読めば、(完全)競争市場においては、「相対価値」は変わらない、と理解することも可能である。 「資本の蓄積、使用によって行われる生産の効率化が行われても、(労働で測った; KN注)商品の相対価値は減少するわけではない。より少ない労働で生産されれば、...
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Notes on Ricardo’s Principles (9) – 価値 8

2015-08-25
 陰鬱な科学(dismal science) 「生産の効率化(生産性の向上)は、その商品(製品)の価値を下げる」という下記のリカードの叙述は陰鬱(dismal)なものである。リカードに象徴される古典派経済学は、当時「陰鬱な科学」(dismal science)と呼ばれることになったが、こういったリカードの叙述も、その理由の1つといってよい。そもそも、生産性の向上は、人々の創意工夫ではなく、単に競争によって強いられるだけであって、商品の価値を下げ、人々の豊かさの向上には繋がらない。その根底にあるのは、「賃金鉄則」(‘Iron Law of Wages’)である。古典派経済学においては、賃金の上昇は、人口増をもたらし、結局、賃金は生存可能最低水準に下落し、均衡する。生産性の向上は、競争によってもたらせるのであるが、それは、結局のところ、生活水準の上昇には結びつかない、ということになる。現代にお...
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