‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ
Notes on Ricardo’s Principles (28) – 価値 27
2015-09-13
リカードの貨幣数量説リカードは、以下、貨幣価値の変化は(労働資本比率、生産要素の投入比率に変化が無ければ; KN注)、利益率に変化を与えないとする。リカードの説明には、貨幣量の記述はないが、以下、それぞれのケースについて、推定される貨幣(供給)量の変化を付して述べることにする。1.生産量に変化が無く、貨幣量が2倍になる場合「貨幣価値の変化がいかに大きくても、利益率には影響を与えない。例えば、製品が£1000から£2000に、100%上昇したとする。もし、機械、建物等の資本、流動資本が同じく100%上昇したとすると、1国の労働による生産量、そして利益率は変わらない。」The variation in the value of money, however great, makes no difference in the rate of profits; for suppose the go... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (27) – 価値 26
2015-09-12
実質価値の変化は分配にあらわれるリカードは、ここで、名目価値の変化と、実質価値の変化の違いについて、数値例をあげて説明する。つまり、貨幣(名目)価値が変化したとしても、商品の生産に投入される労働と資本の投入量の内容に変化がなければ、実質価値には変化はない。そして、実質価値の変化は、結局のところ、資本家、地主、労働者への分配にあらわれる、と述べる。貨幣価値の変化は、実質価値に影響を与えない「利益、地代、賃金の率を知ることができるのは、生産量によってではなく、生産に必要な労働量によってである。機械や農業の進歩により生産量は倍増するかもしれない。しかし、もし、利益、地代、賃金も2倍になったら、この3つは依然と同じ比率を保ち、相対比率に変化は生じないであろう。しかし、もし、賃金が同様に上昇しなかったら、2倍にならず、地代の1/2しか、又は3/4しか上昇せず、残りが利益に配分されたら、地代と賃金は下... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (26) – 価値 25
2015-09-12
マネタリスト・リカードと分配論としてのリカード経済学マネタリズムの先駆者リカードリカードは、次にいよいよ貨幣について述べる。そして、名目価値(貨幣価値)の変化と、商品そのものの実質価値の変化は区別すべきこと、さらに、その判断は、地主、資本家、労働者にどのように成果物(所得)が分配されるかによってすべきである、と議論を展開する。前者は、貨幣価値、つまり、一般的物価水準の変化であり、後者が、各商品の実質価値の変化である。リカードは、さらに、商品の実質価値の変化は、地主、資本家、労働者の所得の分配にあらわれるとする。 ここに、マネタリズムの先駆者としてのリカードと、分配論こそが、自らの科学としての経済学が対象とすべき課題である、とするリカードの立場が明確に示されている。セクション VII価格を表示する貨幣の価値の変化と、商品そのものの価値の変化が与える異なる影響 Section VIIDiffe... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (25) – 価値 24
2015-09-10
「マルサス氏は私の主張を理解していない」; リカードの生産費説ここで、リカードは、マルサスのリカード解釈に反駁する形で、自らの「価値」概念が「費用(生産費)」であること、そして、その生産費が、生産要素への(適正な)利益を含むものであることを明らかにしている。前回、触れたように、リカードの価値説が、アダム・スミスやその後継者達が言う労働価値説ではなく、(生産要素への適切な利益配分を含む)生産費説であることを述べているのである。リカードの経済学の特徴の1つが、所得の分配を扱ったものであることが、ここでも明らかにされているといえよう。「(注) マルサス氏は、私の原則について、『我々は、裁量的に、商品の生産に投入された労働を実質価値と呼ぶことができるであろうが、それは慣習的に言われる内容とは異なるものである。つまり、費用と価値の重要な区別について混同してはならない。富の形成は、この区別に依存してい... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (24) – 価値 23
2015-09-09
アダム・スミスの労働価値説に対する批判: リカードの先進性以下、リカードは、便宜上、金を不変の価値の基準、ないし媒介としつつ、「賃金の上昇は、例外無く、商品の価格の高騰に繋がる」とする、アダム・スミスの主張が誤りである、と述べる。その理由は、賃金が相対価値の変化に与える影響は、労働・(固定)資本比率によって異なる、ということを主張する。但し、ここで留意が必要なのは、アダム・スミスは絶対的な価値を言っているのに対して、不変の価値の媒介との比較において、価格への影響を述べていることである。つまり、リカードは、価値の媒介物の価値の変化を意識している。この意味でも、労働を不変の価値基準とするアダム・スミスと、生産における労働資本比率を考慮し、相対価値を重視するリカードとの違いがあり、先進性があるといえよう。リカードの価値説は、前述したように、労働価値説というより、生産費説といえ、労働だけでなく、資... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (23) – 価値 22
2015-09-08
共通の価値尺度としての金リカードは、金についても共通の価値尺度にならないと述べる。以下の叙述を見るとリカードは価値の評価において労働が最も重要としつつも、それを唯一無二の価値尺度とする労働価値説とは言えない、といえる。この段階の私見であるが、リカードの価値論は、結局のところ、生産費説であるといえるであろう。生産費に、労働投入量、(耐久性を考慮した流動・固定)資本投下量に反映されているからである(それ以外のインプットも基本的に労働と資本が化体されたものと考えることが言える)。「もしこのような変動が排除でき、同じ量の金が同量の労働で獲得(生産)できたとしても、なお、金は、他の商品との価値の変化を測る、完全な価値の基準にはなりえない。それは、同じ耐久性を持つ資本で生産され、市場に提供されるまでの時間が同じだったとしても同様である。それが、相対価値を測る価値の基準となりえるのは、それと同じ状況で生... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (22) – 価値 21
2015-09-08
共通の価値尺度は存在するか?Section VIOn an invariable measure of value. ここで、リカードはいよいよ、変わることのない共通の価値基準、価値の尺度となるべき商品が存在するか議論する。「商品の相対価値が変化する時、どの商品の価値が下落したか上昇したか確認できることが望ましい。比較すべき、変化することのない標準となる価値の尺度があればこれが可能になる。しかし、このような価値の尺度を得ることは難しい。何故なら、このように価値の尺度となるべきものも、同様の価値の変動を被るからである。つまり、価値の尺度となるべき商品も、その生産に当たって必要な労働投入量の影響を受けるからである。しかし、このような価値の変動が排除されれば、言い換えるならば、例えば貨幣の生産において、労働投入量がいついかなる場合でも変化しない、ということが仮に可能であったとしても、不変の価値の... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (21) – 価値 20
2015-09-07
資本の利益率以下のリカードの叙述はどう解釈すべきか。耐久性資本が導入され、その耐久性が長い程、資本集約的に生産される商品の生産コストが下がる、つまり、労働集約的に生産される商品に比べて相対価値が下がる。ここでいう、利益とは資本に対するリターンであろう。とすれば、資本投下量が同じであれば、資本の利益率は、市場において競争的に決定されるわけであるから、利益は同じになる、と解すべきであろう。また、賃金が上昇すれば、資本の利益率は減少する、とはいっても、賃金と資本の代替性を考慮すれば、賃金は上昇しつづけることは考えられない。「機械や耐久性資本が導入される前の経済社会の初期の段階では、同額の資本によって生産される商品の価値はほぼ等しく、又は、労働投入量の多寡に比例して商品価値が変化した。 しかし、高価な耐久性資本が導入された後は、同額の資本で生産されたとしても、商品の価値は、著しく異なることになった... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (20) – 価値 19
2015-09-05
国際分業の視点の登場 前回(19)で、リカードは、賃金上昇の相対価値の変化について述べているわけであるが、その最後のパラグラフに、次のような注を付している。本書の後に出てくる国際分業の考え方に繋がる視点が登場している。つまり、相対的に資本が豊富な先進国は、資本集約的な生産、相対的に労働が豊富な新興国は、労働集約的な生産をするようになる(強いられる)というものである。「(注1)ここで、先進国(old countries)が、資本集約的な生産に転換することを強いられ、新興国(new countries)が労働集約的な生産をするにいたっていることについて考えてみよう。労働者の確保が難しくなり、その結果、必然的に賃金が上昇してくると、資本(機械)を使うインセンティブが生じる。先進国における労働確保の困難さが恒常的になってくると、新興国においては、賃金の上昇がなくても、人口の増加が生じてくる。・・・... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (19) – 価値 18
2015-09-04
リカードの論理展開が完璧な理由: 完全雇用均衡で裁定が働いている状況を想定しているから以下、後半でマーシャル、ケインズ、そして現代の経済学者も舌をまくリカードの論理展開が完璧な理由について推定した。リカードが「天才的」と言われる所以は、当時、経済学の黎明期に、セイの法則(供給が需要を生む=完全雇用経済)を前提に、裁定が完全に働いていることを想定して議論を展開した、その演繹的アプローチにある。しかも、リカードの演繹は、机上の演繹ではなく、優れた実務者、投資家としての経験に裏付けられた、演繹であることに特徴がある。数値例を多用したこともその説得力を高めた理由といってよく、それは実務者ならではのアプローチであるともいえよう。資本の耐久性と商品の相対価格「賃金の上昇は、機械の耐久性の違いによって商品の価値に異なる影響を与える。・・・賃金の上昇、つまり利益の減少は、耐久性の長い資本(機械)を用いて生... → 続きを読む
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