‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ
Notes on Ricardo’s Principles (49) 賃金2
2017-01-18
Notes on Ricardo’s Principles (49) On Wages 2リカードは、賃金が自然価格に収束する傾向をもつことを説明する。賃金が自然価格を下回る時、労働者は生活に必要な食料、必需品、便利品を購入できず困窮することになる。リカードのこのような表現により、経済学は「陰鬱な科学」と呼ばれるにいたったのだろう。しかし、留意すべきは、リカードはこのような状況は長続きせず、自然価格に収束することを説いているのである。また、より重要なことは、リカードは社会の進歩に伴って、資本が定常的に増加するような状況では、労働需要が増加し、労働の市場価格は、永続的に自然価格を上回るかもしれない、と述べていることである。ここで、リカードは、資本の増加が経済成長の原動力であると説いていると解することが可能であろう。(訳)労働の市場価格は、労働に対する自然な需給の作用によって、実際に労働に対し... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (48) 賃金1
2017-01-17
Notes on Ricardo’s Principles (48) On Wages 1リカードの賃金論は、最も批判や議論の多いのテーマの一つといってよいだろう。「賃金鉄則」は、リカードを代表とする古典派経済学の特徴であると共に、その理論の限界である、と捉えられることが多いからである。しかしながら、リカードの賃金論をいわゆる「賃金鉄則」(The Iron Law of Wages; 賃金は生存可能な最低水準の食料、必需品の購買力レベルに決定される)と捉える解釈は、リカード経済学に対する最大の誤解の一つであるといってよいであろう。まず、最初のパラグラフで、リカードは、労働の自然価格において労働者は「増加もせず、減少もしない」(without either increase or diminution)と述べる。これは需給が均衡した状態である。そして、リカードは、「社会の進歩に伴って、労働の... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (47) 自然価格と市場価格 4
2017-01-15
Notes on Ricardo’s Principles (47) On Natural and Market Price 4競争の結果としての自然価格リカードは、より有利な投資機会を求めて資本が効率的に配分される競争の結果として成立する、商品の本来持つ交換価値、購買力、商品の自然価格について述べる。商品の自然価格とは、商品の本源的価値、今日の経済学でいう「均衡価格」であるといってよいであろう。リカードは、商品の価格が偶然、又は一時的な理由によって、自然価格から乖離することがあることをよく認識すべきである、としている。しかし、明らかにするのは、自然価格を支配する法則、メカニズムであることを述べる。市場価格は、自然価格から乖離しうる。しかし、競争過程を通じて、自然価格に収束するという視点を示唆している。(訳)商品の市場価格が、自然価格よりも著しく高く又は低く留まることはないのである。それは... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (46) 自然価格と市場価格 3
2017-01-14
リスク調整後の資本収益率の均等化 リカードは、自然価格において全ての資本収益率が均等化されることを述べる。但し、注目すべきは、その収益率は、名目金銭的な収益率ではなく、「安全性(security)、透明性(cleanliness)、容易性(ease)、その他の実質のあるいは推定された有利さ(any other real or fancied advantage)を考慮した上での均等化としていることである。つまり、リカードが資本収益率均等化の法則を説くとき、それは、リスク調整後の資本収益率を意味しているのである。これは現代のファイナンス理論に通じるものであり、今さらながらリカードの時代を超越した明晰さに驚くばかりである。(訳)ある資本家が、その資金(資本)の投入先を決定するにあたっては、当然のことながら、様々な投資機会を比較した上で、より有利な投資機会を求めることになる。 その際、金銭的利益... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (45) 自然価格と市場価格 2
2017-01-11
前回、リカードは、ある商品の均衡価格、ないし(労働量を反映した)本源的価値をあらわす自然価格(natural price)と市場価格は乖離することはしばしばであるが、それは (より低い資本収益率からより高い資本収益率の分野へ) 資本が再配分されることにより調整される旨を述べた。繰り返しになるが、リカードが、自然価格と市場価格の乖離を資本の再配分によって調整されるとしたことは極めて興味深い。注目すべきは、リカードが自然価格として、資本の(効率的)再配分による長期の意味での価格としてとらえていることである。これは、投資家としてのリカードを考える上で重要である。つまり、短期的には、例えば、商品(市場)価格は、超過供給を反映して、ミクロ経済学でいう操業停止点まで下落しうる。しかし、長期的には、資本の再配分を通した資本収益率の均等化により自然価格に均衡する、言い換えれば、短期的に操業停止点にまで急落... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (44) – 自然価格と市場価格 1
2017-01-10
途切れていたリカードの「経済学及び課税の原理」について読みすすめよう。第4章でリカードは、自然価格と市場価格の乖離について述べる。自然価格は、今日の経済学でいう均衡価格と見なしてよいだろう。但し、リカードは価値の基礎を労働(又は相対的な労働量)においているような叙述をしている。また、均衡価格への競争を通じた調整過程で資本の効率的配分が同時に達成される趣旨が述べられている。その意味で、短期と長期の概念が同時に扱われていると言ってよいだろう。そして、資本収益率の均等化、すなわち資本の限界効率の概念が登場する。第4章 自然価格と市場価格商品の価値の基礎は労働とその生産に必要な相対的労働量であり、交換にあたって、必要な商品量を決めるルールである。しかし、実際の市場価格が、偶然に、または一時的に、その自然価格から乖離することを否定すべきではない。通常の出来事の成行き、時間の経過において、需要量と供給... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (43) – 鉱山の地代 2
2015-10-05
価値の基準としての貴金属リカードは、ここで価値の基準としての基金属について述べる。貴金属の価値も他の商品同様、本質的には価値の変動を受けるとしている。但し、後述では、(アメリカの発見、そしてその豊富な鉱山の発見により、明らかにその変化は変化を受けているとしても)他の商品に比べて相対的に小さいとし、従って、価値の基準として適当であると、結論している。ここで、筆者はむしろ冒頭の、本質的には、その価値は変動している、と述べているリカードの主張を重視すべきと考える。筆者は、金、銀は、価値の基準としては「野蛮な遺物」("barbaric relic")であるとするケインズの見方が、今日においてより適切であるという立場をとりたい。リカードもまた、本質において金、銀の価値は変動する、としている点がリカードの本質的な主張であると考える。しかし、だとしても、他の商品に比べればその変動は相対的に小さく、従って... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (42) – 鉱山の地代 1
2015-10-02
第3章 鉱山の地代Chapter IIIOn the Rent of Mines鉱山の差額地代論これまでのリカードの地代論は、農業におけるものであったが、ここでは、鉱業における地代、鉱山の地代について論じる。その原理は土地の場合と全く同じであると述べる。つまり、差額地代は、生産力において最劣位の鉱山を基点に、それより優位な等級の鉱山の生産力の差に従って発生する、とするものである。この中で、リカードが、最劣位の鉱山における資本収益率が、一般的、通常の資本の市場収益率になる、と明確に述べている点は注目に値する。これは、ケインズが「資本の限界効率」と言っているものと、同じ概念であると推定される。「貴金属は、自然、天賦の資源であるが、他の財と同様に、労働によって大地より採掘され、用益に供される。」The metals, like other things, are obtained by labo... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (41) – 地代 13
2015-10-02
穀物地代と貨幣地代
穀物地代は生産力の差、貨幣地代はさらに生産力の逓減率を反映して決定される;
ゆえに貨幣地代はより累進的に増加する
リカードは地代論の最後で、穀物地代と貨幣地代の違いについて述べる。ここでリカードがいわんとすることは、(穀物)地代は土地の生産力の差によって決定されるが、貨幣地代(名目地代)は限界地の穀物価格に生産力の差が反映され、その価格が全てのより優位な等級で発生した差額穀物地代に反映されるために、貨幣地代の上昇率はより高くなるということである。言い換えると、穀物地代は実質的な生産力の違い、差を反映して決定されるが、貨幣地代は、生産力の違いと(限界)生産力の低下率(逓減率)を反映して決定されるため、穀物地代よりも累進的に上昇するのである。
リカードの数値例は、ポンド(£)、シリング(s)、ペンス(d)という、10進法、12進法、20進法の混じった複雑な... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (29) – 地代 1
2015-09-15
地代論: 土地(土壌)の原初、不破壊の力: "the original and indestructible powers of the soil"
Chapter II
On Rent
リカードは、本書の序文で「地代についての正しい認識がなければ、富の蓄積が、利潤や賃金へ及ぼす効果や、課税の地主、資本家、労働者といった各層への影響を正しく理解することは不可能である」と述べ、地代の原理を理解することが、その経済理論の根幹であるとしている。リカードの地代論は、現代経済学における限界生産力説に繋がる視点であると推定される。リカードは、その時代背景もあり、主に農業を想定してその理論を展開しているので、土地の原初的な生産力はことさら重要な意味を持ったと思われる。しかし、その分析の視点は、他の生産要素にも当てはまる鋭利なものと言って良いだろう。
地代と資本に対する報酬の区別の重要性
「... → 続きを読む
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