‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ
Notes on Ricardo’s Principles 59 Wages 12 賃金
2019-02-17
マルサスが明らかにした救貧法の有害性: リカードの称賛 - マルサス「人口論」は経済学史上画期的な労働供給論
【コメント】救貧法の弊害を明らかにしたのはマルサスであるとする。マルサスの人口論は、経済学ではじめてメインテーマとして労働供給論が展開された画期的な書である。リカードはこれ以上ないほどの称賛をおくっている。
マルサスは、労働者の限界不効用を生存可能最低賃金と定義した。現代においては、限界不効用は生存可能最低賃金ではない。社会文化的状況に応じたひとびとの多様な価値観がある。ここに古典派経済学の限界があるとしても、労働供給を徹底的に科学的、数理的に見たという点にマルサスの先進性がある。リカードはマルサスの労働供給論を軸に、その経済学を徹底した裁定理論に仕上げた。
(訳) この有害な法律の性向は、もはや謎ではない。それはマルサス氏の優れた手腕によって明らかにされたからであ... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles 58 Wages 11 賃金 – revised
2019-02-17
貧困者救済法は貧困者と富裕者双方の生活状況を悪化させる: 法律では救えない
【コメント】リカードは「貧困者救済法は、規制当局の慈善の意図に反して、貧困者の生活状況を改善するものではない。それどころか、貧困者と富裕者双方の生活状況を悪化させるものである」と述べる。
(訳)
これが賃金を律する法則である。幅広いコミュニティの生活や幸せがこの法則に支配されている。他の契約と同じく、賃金は市場の公正で自由な競争にゆだねられるべきである。決して規制当局の介入により支配されるべきではない。
貧困者救済法の明確で直接的な作用は、これらの法則に全く逆らうものである。それは、規制当局の慈善の意図に反して、貧困者の生活状況を改善するものではない。それどころか、貧困者と富裕者の双方の生活状況を悪化させるものである。貧困者を豊かにする代わりに、富裕者を貧困にすることになると計算される。現在の法律が施行さ... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles 57 Wages 10 賃金 – revised
2019-02-16
賃金が上昇しても商品の相対価値は変化しない
【コメント】 リカードは、「賃金の上昇により商品が騰貴するということは、明らかな矛盾を認めることになる。一方では、金は需要増の結果として相対価値が上昇するといい、他方では、金は、諸価格の上昇により相対価値が下落するといっているからである。」と述べる。
これは何を意味するのか。賃金上昇の背後には、富と資本の増加、商品への需要増がある。それにともなって貨幣量が増加する。これは取引動機に基づく貨幣需要の増加である。その貨幣価値の裏付けとなる金が生産される。リカードは金を貨幣価値の裏付けとしていると推定される。それは、「紙幣は、金価値に一致しており、また一致すべきだからである。従って紙幣の価値は、これらの原因が、金の価値に影響を与える限りにおいて、影響されるのである」と述べているからである。
ここでのリカードの主張の趣旨は、以下のように... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (56) 賃金9 Wages 9
2018-03-30
ポイント
リカードは貨幣賃金と穀物賃金の違い、実質的購買力を数値例を使いながら説明する。貨幣賃金が上昇しても労働者の穀物賃金は変わらないかむしろ下落する。実質賃金は労働の限界生産力に決定されるからである(需要サイド)。実質賃金は、限界生産力逓減の法則によって低下していく傾向を持つ。ここでも、(農業経済における)可変的な資本、労働に対して土地の相対的稀少性が仮定されているといえるだろう。
Here, Ricardo explains the nature of and the difference between money wages and corn wages or real purchasing power, using numerical examples. Even if money wages increase, laborers’ corn wages would not... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (55) 賃金8 Wages 8
2018-03-27
リカードにおける分配論は土地の相対的稀少性を前提にしている。つまり、土地は資本、労働に対して相対的に稀少性を持つゆえに、資本蓄積、労働人口増加に伴って土地への配分が増大する。また等級の高い土地は、より低い等級の土地が耕作されるにしたがって差額地代が発生しより高い地代を獲得することになる。等級の高い土地価格はますます上昇する。余談だが、リカードは当時の欧州の封建的な土地所有制度、貴族による土地所有を批判的に見ていたのだろうか。リカードは労働者階級に同情的であったのだろうか。エンタープライズ(企業家精神)をどう見ていたのだろうか。
Ricardo's theory on the distribution of national dividend depends primarily on the scarcity of land, in particular, that of superior... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (54) 賃金7 Wages 7
2018-03-25
ポイント:
① 生存可能最低水準賃金(the means of subsistence)の説明。労働供給は賃金が生存可能最低水準になるまで続き、実質賃金は生存可能最低水準で均衡するとするリカード経済学の考え方。そこでの労働者階級の状態が説明される。リカードを代表とする古典派経済学が「陰鬱な科学」(dismal science)と呼ばれたゆえんである。Ricardo's iron law of wages: the real wage = the means of subsistence.
② 賃金=生存可能最低水準というのは今日では現実的ではないが、労働への需要と供給、それに関連して人口動向との関連で重要な示唆がある。ケインズは、雇用に関する古典派の公準として、(1) 労働需要について、実質賃金=労働の限界生産力、(2) 労働供給について、実質賃金=労働の限界不効用とした。In tod... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (53) 賃金6 Wages 6
2018-03-22
ポイント
① 超過人口がもたらす生存可能最低賃金に依存するリカードの労働供給論。効用理論を持たないリカード経済学の限界でもある。 The paragraphes below are, in essence, about Ricardo's labor supply theory. The lack of utility theory is his limit.
② 生存可能最低賃金へのさらなる下方圧力 Population presses against the means of subsistence.
③ 人口増加を上回る生産力の増大のため規律ある政府、教育の重要性 To be made happier they require only to be better governed and instructed, as the augmentation of capita... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (52) 賃金5
2018-02-17
ポイント Key Points
1) 工業製品と農産物の相対価値の変化。前者は減少し、後者が増加する。Relative value between manufactured commodities and raw produce. The former relatively decreases while the later increases.
2) 資本蓄積は速い速度で進むが、労働の供給はそれほど速く進まない。労働需要が労働供給を上回るため、(貨幣価値を一定と仮定すると)賃金は上昇する。Accumulation of capital progresses more rapidly than labor supply. As demand for labor outpaces labor supply, wages tend to rise.
3) 土地の供給には... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (51) 賃金4
2017-01-21
Notes on Ricardo’s Principles (51) On Wages 4労働と資本の相対価格リカードは労働の市場価格は、資本の増加により自然価格を上回る傾向にあるものの、いずれは自然価格に収束すると述べる。資本と労働の相対価格の違いによって収束(調整)の速度が異なることが述べられる。すなわち労働の相対価格が高い場合は、労働供給増(人口増とほぼ同義に扱っている)を促すが、低い場合は人口増を刺激しないためである。効用概念の萌芽また、より重要なことは、リカードは労働の自然価格は、習慣、風習、場所、時間によって異なることを述べていることである。リカードは生産については限界生産力の概念を軸に理論を展開するのに対して、需要については限界効用の概念を展開していない。しかし、習慣、風習、場所、時間によって労働者の満足度がことなると指摘していることは、需要が消費者の満足度(効用)に依存して... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles (50) 賃金3
2017-01-20
Notes on Ricardo’s Principles (50) On Wages 3資本の定義リカードは、資本の定義を述べる。リカードによれば、資本とは、土地と労働以外の生産要素である。つまり、生産にあたって(土地と)労働共に投入される食料、衣類、道具、機械、原材料その他必要なものである。これは、経済学を理解する上で重要な考え方であるといってよいであろう。収穫逓減(限界生産力逓減)の法則リカードは収穫逓減(限界生産力逓減)の法則について述べる。この法則は、これまでも議論の展開で度々登場している。リカード経済学の基調をなす考え方であり、経済学の基本原理の一つと言ってよい。それは、端的に言えば、他の条件を一定として、ある生産物の生産量を追加的に増やす場合に、可変的な生産要素の追加的投入量は逓増する、というものである。価値の定義としての労働ただし、リカードは、価値は、あくまで(相対的な)労... → 続きを読む
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