‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ
リカード「経済学原理」を歩く-69 利益-8
2019-03-05
【コメント】生活必需品の価格の上昇にともなって賃金が上昇することを述べる
(訳)
貨幣賃金は原料価格の上昇とともに上昇するということを当然のように述べた。しかし、これは必ずしも必然的な結果ではない。というのは労働者はより少ない楽しみで満足するかもしれないからだ。労働賃金は以前には高い水準だったかもしれず、いくらかの減少を受け入れるかもしれないからだ。とすると、利益の減少は抑えられるだろう。しかし、貨幣賃金が生活必需品の価格が上昇する中で、下落または静止しているということは不可能である。したがって、通常の状況においては、賃金の上昇に続いて、生活必需品の価格の永続的上昇が起るといってよいであろう。
利益に対する影響は、労働賃金の支出の対象である食物を除く生活必需品価格の上昇した場合も、同様であるということができる。労働者は、必需品価格が上昇すれば、より多くの賃金を要求せざるを得ない。賃... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-68 利益-7
2019-03-02
【コメント】リカードは鉄の論理をつづける。生産量の拡大にともない、生産物価格は上昇する。追加的な生産要素の投入に対する利益率は減少する。ここでは規模の経済ははたらいていない。収穫逓減、限界生産力逓減の鉄の経済原則が支配する粗野(rude)な世界である。
ただし、利益、そして利益率が減少しているのは追加的に投下された生産要素に対してである、ということに注意が必要である。利益最大化条件は、限界収入=限界費用である。限界費用の上昇にともない、限界収入に対する限界的な利益は減少する。それがゼロになったときに利益は最大化されるわけである。
(訳)
しかし、利益率はさらに落ちるだろう。なぜなら農業者の資本は、多くはトウロモコシ、干し草、脱穀されてない小麦、大麦、馬、牛などの原生産物からなっており、それらは生産物価格の上昇の結果、上昇するからである。その絶対的な利益は480ポンドから44... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-67 利益-6
2019-03-02
【コメント】生産物価格の上昇と利益率減少の論理。数値例が続く
(訳)
生産物価格によって決定される地代は、農業者は支払らうことはなく、消費者に課されることになる。しかし、農業者は地代を低く抑えること、つまり生産物価格を低く抑えることに決定的な利益がある。原生産物およびその原生産物をもとに生産された生産物の消費者は、他の一般消費者と同様に価格を低く抑えようとする。しかし、賃金に影響を与える穀物価格の高さにはなはだしい関心をもっている。穀物価格の上昇に伴い、追加的な賃金を変わることのない720ポンドから払わなければならない。賃金は、追加的な10人の賃金を払うために原生産物の価格上昇に伴って必ず上昇することをみてきた。計算例で示したように、小麦がクウォーター当り4ポンドなら賃金は年24ポンドになる。
小麦価格 賃金
£ s. d. £ s. d.
4 4 ... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-66 利益-5
2019-03-01
【コメント】リカードにあっては価値は労働投入量によって決まる。ただし配分は異なる。生産量の拡大に伴う限界生産力の逓減に伴い生産物価格は上昇する。地代の配分が増え、残りの一定額を利益と賃金で分ける。
(訳)
追加的な生産物を得るためには、より多くの労働と資本を投入する。その結果として生ずる穀物価格の上昇は、追加的な地代、または追加的な労働の価値に必ず等しくなる。つまり、穀物が4ポンドであれ4ポンド10シリングであれ、または5ポンド2シリング10ペンスで売られるにせよ、農業者は地代を支払った後に残った同じ実質価値を得ることになる。このように、農業者に属する生産物が180クウォーターであれ、170クウォーターであれ、160クウォーター、または150クウォーターであれ、いつも同じ720ポンドを得るのだ。価格は生産量に反比例して上昇する。
地代は、いつも農業者ではなく消費者に課されるように見... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-65 利益-4
2019-02-28
【コメント】限界生産力の逓減に伴い、価格が上昇しても、その分(の価値)が(差額)地代として払われるため、農業者の得る価値は変わらない。賃金が上昇すると農業者の配分は減ることになる。
(訳)
この場合、穀物の価格の上昇は、労働者の貨幣賃金を上昇させ、農業者の利益の貨幣価値を減少させる。しかし、古いより良い土地の農業者の場合は変わらない。同じく上がった賃金を払うことになり、生産物価値のより多くを得ることはできない。生産物価格が720ポンド以上に高くなったとしても、それは農業者と労働者(同じ人数)の間で配分される。労働者はより多くの配分を得、農業者の配分は減る。
穀物価格は4ポンドのとき、耕作者が全180クウォーターが得て、720ポンドで売った。穀物価格が4ポンド4シリング8ペンスに上昇した時、180のうち10クウォーターの価値を地代として払う必要があり、結果として残りの170クウォータ... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-64 利益-3
2019-02-27
価格上昇にしたがって農業者の利益が減少する論理
【コメント】リカードは数値例を使って、限界生産力の逓減に伴って、価格が上昇し、農業者の利益率が減少する論理を説明する。
(訳)
穀物が4ポンドから10ポンドに上昇した時、第1等の土地から得られる180クウォーターは、720ポンドではなく1800ポンドで売られるだろう。したがって、地主と労働者は地代と賃金についてより大きな対価を得ることになるになるが、農業者はより大きな利益を得られるだろうか。これは不可能である。それを以下に示す。
まず第一に、穀物の価格は、より劣等な土地での耕作の困難さに伴ってのみ上昇する。すでに述べたように、もし労働者10人が、ある等級の土地で180クウォーターの小麦を収穫し、その価格がクウォーター当り4ポンドだとしたら、720ポンドを得る。もし、10人の追加的な労働者が同じ、または別の土地で、追加的に170クウォ... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-61 利益-2
2019-02-24
土地の等級別の限界生産力格差によって、差額地代が発生する。それが、地主の分配率を高める。但し、労働(投入量)を価値の唯一の源泉とする
【コメント】リカードはその分配論を展開する。社会の進歩に伴い、生産物の生産量が増えるにしたがい、地主、労働者、農業者の持分価値が増加する。しかし、分配においては地主の配分は増加するが、労働者、農業者のそれは減少するとする。
これをどう解すべきか。リカードは投下された労働を価値としている。資本の蓄積が進み、労働生産性は上昇し、生産量は増えていく。生産量の増加に伴い、労働需要が増え、賃金が上昇すると、労働が供給される(人口増)。したがって、価値の総額は増加する。ただし、労働供給(それは労働需要量にも等しくなるのだが)は、賃金が生存可能水準になった時に止まる。
確認になるが、価値の裏付けはあくまで労働である。一方、生産量が拡大するにしたがって... → 続きを読む
リカード「経済学原理」を歩く-62 利益-1
2019-02-22
資本の対価としての利益
【コメント】リカードは資本に対する対価としての利益について述べる。土地(地主)に支払われる(差額)地代、資本に支払われる利益、労働に支払われる賃金という分配論に従って議論を展開する。賃金が上昇すると商品価格はその分だけ上昇し、利益は変わらない。したがって利益率は減少する。
つまり、資本の利益率を上昇させるためには相対的な労働投入量を減少させることが必要であることを示唆する。資本集約的な生産が資本の利益率を上昇させることになるだろう。
(訳)
第6章 利益について
様々な用途に利用されている資本の利益は、それぞれの割合に応じて配分されている。その配分は、同じだけ、同じ方向に変化する傾向を持っている。利益率を永続的に変化させる要因は何であるか、そして利子率を永続的に変化させる要因は何かについて考察する。穀物の価格は、生産するために必要な労働量によって... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles 61 Wages 14 賃金
2019-02-21
【コメント】リカードは救済法の弊害を続けて述べる。歴史を見れば、経済社会は、競争の重視、福祉、社会保障の重視を相互にくりかえしている。市場経済と計画経済、資本主義と社会主義、共産主義という形でとらえることもできる。やや古い言い方になるかもしれないが、わたしたちは混合経済(市場経済を中心としながら計画経済を部分的に導入した混合システム)の中に生きている。競争的市場経済を軸としながら、戦略的、裁量的な政策、規制を導入し、最適な状態を模索している。
話はややそれるが、都市のあり方を考えると、競争と規制(計画)の相互のフィードバックが必要になることがわかる。基本的に都市は競争的市場経済の原理で生成、発展する。しかし、自由放任にしておいていたらスプロールが発生し、環境や景観が悪化する。都市のより良き発展には、都市計画、規制が必要になる。競争的市場経済を中心としつつ、マイルドな規制を導入する... → 続きを読む
Notes on Ricardo’s Principles 60 Wages 13 賃金
2019-02-20
救貧法への反対:「陰鬱な科学 (dismal science)」といわれた理由
【コメント】リカードの救貧法への反対は、リカードやマルサスの古典派経済学が、今さら言うまでもないが、「陰鬱な科学(dismal science)」と呼ばれた最大の理由であろう。経済学は、慈善の目的が、かならずしも社会全体に善をもたらすものではない、ということを示す。悲惨を改善しようとする善意の行為が、むしろ間接的に悲惨を助長する。
例えば、政府による最低賃金の設定が、雇用主、企業の雇用意欲を削ぐということがある。そのため、非正規雇用が増える。政府は非正規雇用を罰する規制を加える。すると非自発的失業が増える。
一方、やはり悲惨をみれば、これを救いたい、と思うのは人間の自然なこころであろう。但し、ここでも、これを救うのか、それともぐっと涙をのんで試練として課すのか。後者は、「獅子の子落し」(わ... → 続きを読む
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