‘経済学古典を歩く Walking Economics Classics’ カテゴリ

リカード「経済学原理」を歩く-79 外国貿易-2

2019-03-21
【コメント】利益率均等の法則の説明が続く・・・ (訳) 外国貿易で特定の商人が大きな利益を上げる場合がある。それは、その国の一般的な利益率を高め、他の用途から、新しく有利な用途に資本が転用されるだろう。一般的な価格は上昇し、その結果、利益を増加させるだろう。穀物の生育、布、帽子、靴その他の製造に投下される資本が減る一方、需要が同じだと、それらの商品価格は上昇し、農業者、帽子、布、靴の製造業者は、貿易商社と同じように利益を増加させることができる。異なる用途に用いられた資本は、一般的な利益率に収束する傾向を持つ。利益の均等は一般的な利益の上昇によってもたらされるのではなく、より高い利益率の取引が一般的な水準に落ち着くのである。この点で、わたしの主張は多くの論者とは異なっている。 (original text) It has indeed been contended, tha...
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リカード「経済学原理」を歩く-78 外国貿易-1

2019-03-20
【コメント】いよいよ今も輝きを失わないリカードの比較優位説が説かれる「外国貿易」の章だ。リカードはまず、労働価値説から入る。つまり、外国貿易がおこなわれたからといって、その国の生み出す価値が増えるわけではない、と切り出す。しかし、外国貿易によって得ることができる商品の量とそれがもたらす効用(満足度)は、圧倒的に高まるとする。そして、利益の章で述べたように、資本の利益率が一般的水準に収束する法則を述べる。 (訳) 第6章 外国貿易 外国貿易によって直ちに1国の価値が増えるというわけではない。しかし、外国貿易は、多くの商品とそれがもたらす人々の満足を大幅に増加させるだろう。外国商品の価値は、交換されるその国の土地と労働の生産物の量によって測られる。つまり、より大きい価値を持つことになるわけではない。新しい市場の発見によって、その国の生産物に対して、2倍の外国商品を得ることができるように...
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リカード「経済学原理」を歩く-77 利益-16

2019-03-20
【コメント】リカードは賃金の上昇が商品の名目価格を上昇させないと議論を展開する。また、仮に商品価格が上昇したとしても、それは貨幣価値の下落をもたらすのみであって、両者に実質的な差異はないと主張する。結果的には、賃金の上昇は、利益率を減少させるのである。 (訳) どんなに大きな国でも、土地がやせていて、食料の輸入が制限されていると、利益率は大きく下落、地代は急速に上昇し、資本の蓄積は乏しくなる。一方、小さくても土地が肥沃な国は、特に食料の自由な輸入が認められている場合には、利益率は大きく減少せず、地代もあまり上昇せず、資本の蓄積がおこる。賃金の章で、商品の名目価格は、賃金の上昇によって上昇しないことを示した。それは、貨幣の基準である金が、その国の生産物か、海外からの輸入であるかを問わない。そうでない場合、つまり、商品価格が高い賃金によって永続的に上昇するとしても、この主張の信ぴょう性が...
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リカード「経済学原理」を歩く-76 利益-15

2019-03-17
【コメント】リカードの分配論は農業経済を前提にしたものとの感が強い。これは、先に述べたようにリカードが限界概念(微分法)を経済学にもたらした革新性と比べると、時代の制約を感じざるを得ない。もっとも、リカードの理性は、プリミティブな農業経済を前提にすることで、むしろ限界概念を先鋭に提示していると解することもできるかもしれない。 前提を置いた上で論理を展開する。これがサイエンスのアプローチである。しかし、この議論の展開により、リカードが導こうとしたのは何だろうか。欧州の貴族の土地支配に対する警告なのか、資本主義の黎明期にあって、資本家が逆境に置かれていることを示し、改革をうながそうとしたのか、労働者の苦境をうったえようとしたのか。 いずれにしても、リカードが示したモデルが、19世紀から20世紀の経済社会に与えた影響、功罪ははかりしれない。 くりかえし引用するが、以下...
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リカード「経済学原理」を歩く-75 利益-14

2019-03-16
【コメント】リカードは収穫逓減の原則が支配する中での分配論を展開する。そして、地主のみがその配分を高めて利得者となると述べる。これは土地の相対的稀少性を前提にした論理的帰結であるといってよいだろう。 しかし、これはかなり素朴な農業経済において成り立つ帰結であるといってよいだろう。リカードのいう地主への分配増は、第一に、土地の相対的稀少性、第二に、土地の生産性格差、等級を前提とすることから発生しているといえるだろう。 地代、より一般的には経済的レントの理論は、供給に制約がある生産要素、財サービスにはすべて成り立つものといってよい。例えば参入障壁も経済的レントの発生の要因のひとつである。 今日ではまず農業の経済に占めるシェアの著しい低下がある。また、土地の供給は建物の高層化、交通通信の発達等により、相対的稀少性は、著しく低下しているといってよいのではないだろうか。...
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リカード「経済学原理」を歩く-74 利益-13

2019-03-15
【コメント】リカードは利益最大化条件(限界収入=限界費用)を数値例を使って粗野に説明している。その本質は微分法である。数式は使っていないが、ここにあるのは、まさしく微分法による限界概念にほかならない。リカードは実践的経済学者として、数理的に経済現象をとらえ、行動していたことがわかる。リカード経済学の革新性はまさに限界概念を経済学にもたらしたことにある。  そして、このことこそが、リカードが労働価値説をとりながら、マルクスおよびその経済学と決定的に質を異にする点であろう。 (訳) 多くの取引は多かれ少なかれある優位さを生み出すだろう。つまり、ビール醸造者、蒸留酒(ウイスキー等)製造業者、衣服商、亜麻布(リネン)などの製造業者は、原料、完成品の在庫の価値の上昇によって、部分的に利益率の減少の補償を得るだろう。しかし、宝石類、その他の商品のハードウェアの製造業、その資本が一様に貨...
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リカード「経済学原理」を歩く-73 利益-12

2019-03-12
【コメント】利益率減少の陰鬱な数値例の説明が続く。完全競争市場では、利益は生じないことを示している。これは経営戦略はもちろん、株価評価にも示唆的である。つまり、利益率は参入障壁の高さの関数なのである。 (訳) 計算で示そうとしたのはその法則である。具体的に示すための数値例に過ぎないことは言うまでもない。その結果は、程度は様々にせよ原則においては同じだ。人口増に伴なって、その家族を養うために必要とされる追加的な穀物を得るために追加的な労働が投入される。わたしの目的は単純化してその法則を示すことだ。そのために他の必需品の価格上昇は考慮しなかった。原料価格が上昇すれば、それに伴ないそれらの価格も上昇するため、さらに賃金は上昇し、利益は減少することになる。 すでに述べたように、このような価格の状態が永続的になるかなり前の時点で、生産性向上により利益を増やす場合を除いて、資本蓄積の動機はなく...
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リカード「経済学原理」を歩く-72 利益-11

2019-03-11
【コメント】数値例がつづく。利益最大化生産量のとき、限界収入と限界費用が等しくなり、限界利益はゼロになる。限界収入の配分は地主(地代)と労働者(賃金)となり、特に地主への配分が大きくなる。地主への配分が逓増するというのは農業経済を仮定しているからと考えてよいであろうか。あるいは生産要素のうち、土地の相対的稀少性を仮定すればこのような結論を導けると考えてよいであろうか。 (訳) これまでに示した計算例をもとに議論をすすめると、穀物がクォーター当り20ポンドのとき、1国のすべての純収益は地主のものになる。なぜなら、もともと180クォーターの生産に必要な労働量が36クウォーターを生産するために必要になるからだ(20ポンド:4ポンド=180:36)。農業者は、もともと180クォーター生産していたわけだが、180クォーターをクォーター当り20ポンドで売ると総収入は3600ポンドとなる。 ...
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リカード「経済学原理」を歩く-71 利益-10

2019-03-10
【コメント】資本の限界効率の逓減の原則が述べられる (訳) 価格は常に市場の需要と供給の状況によって変化する。布が1ヤード当り40シリングで供給されたときに、一般的な資本の利益が得られたとする。しかし、需要が流行の変化、その他の特別な要因によって、突然に、予想以上に増加して、60とか80シリングに上昇するかもしれない。布の生産者は、当面は、通常以上の利益を得ることになるだろう。しかし、資本は、自然に供給と需要が再び適正なレベルに達するまで、布の生産に流入する。布の価格は、再び自然(必要)価格の40シリングに落ち着くだろう。同様に穀物に対する需要増によって、農業者の利益は通常以上に高くなるかもしれない。もし、肥沃な土地がたくさんあれば、穀物の価格は再び以前の標準にもどるだろう。必要な資本がその生産のために流入するからだ。そして、利益は再び以前の水準にもどるだろう。肥沃な土地がたくさん無...
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リカード「経済学原理」を歩く-70 利益-9

2019-03-07
【コメント】資本利益率の一般的水準への収束過程について述べている。粗野な形で表現されている。実践的な経済学を身につける上では、あまりエレガントな数式でわかった気になるより良いのではないか、と思う。 経済学の古典を読むとは、その生成の過程を自ら歩むことに他ならない。それがまた、投資家リカードの神髄を味わうことにもなるのだ。遅々とした歩みであるが、興味ある読者はお付き合いいただければ幸いである。 (訳) 利益の一般論について述べる。商品の市場価格は、自然価格を超えることがあるかもしれない。新しい需要が供給を超えるかもしれないからだ。しかし、これは一時的な現象である。その商品を生産するために必要な資本に対する高い利益は、当然のことながら新しい資本の流入をうながす。必要な資金が供給されると、商品の生産量が増加する。価格は下落する。資本利益率は一般的水準に収束する。一般的利益率の下落は、...
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