‘ノベルズ Novels’ カテゴリ
アナリスト出門甚一の冒険 学生生活 (1)
2019-01-28
学生時代(1)
その日、出門は京南大学の経済学部の午前の経済原論の授業にでようと思った。授業に出る前、横東線の吉日駅の喫茶店に立ち寄った。授業はあと10分というところだ。そこへクラスメートである京南大学の付属女子高出身の秀才島田紀子が足早に通りかかった。紀子は従業の10分前にもかかわらず、ゆうゆうとコーヒーを飲む出門に「もうすぐ授業よ、何やってるの」といわんばかりの表情を見せた。出門は、「秀才女子が授業ギリギリとはめずらしい」と声をかけようと思ったがやめた。もちろん気恥ずかしいからだ。
出門は、この何か、学生だけに許された時間、空間の自由な空気が好きだった。大学生活というのは、校則に縛られ、良い意味でも悪い意味でもお互いをある程度知り合った、いわば村社会といもいって良い高校時代と違った、気ままさがあった。学問にはげむもよし、スポートにはげむもよし、サークル活動にはげむもよし、趣味にふけ... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 6
2015-02-28
作: 三島 真一シクリカル出門は、コモディティセクターの一産業分野である紙パルプ業界のセクターレポートと業界トップの新パシフィック製紙のレポートをリリースした。足元の紙需要は極めて強く、新パシフィック製紙への投資判断は「BUY」であった。紙パルプセクターはシクリカル(景気敏感)セクターといわれ、景気が拡大すれば、需給が逼迫、原材料であるパルプそして紙製品価格が上昇する。それが誘因となり、新規供給が増加する。景気がピークアウトすると、需給が緩み、価格に下落圧力が加わる、という循環を繰り返すセクターであった。紙パルプ製品への需要はほぼ経済成長とともに増加するとされ、それが需要予測の根拠とされていた。デジタル革命によるペーパーレス社会の到来を危惧する声もあったが、全体で見れば、紙需要が経済成長と共に成長する従来のトレンドに大きな変化は無かった。出門は、欧米からの機関投資家に日本の紙パセクターの稼... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 5
2015-01-18
作:三島 真一
ウォーターフロント
投資銀行業界へ飛び込んで6か月、ほとんど、土日休日も無く、昼も夜も無く大手町プライムスクウェアビルのUPG証券のオフィスで時を過ごした。クライアントに投資勧誘するために会うために必要なライセンスを取り、セクターレポート、カンパニーレポートを仕上げた。カバレッジを開始したのだ。ウォーターフロントにあるマンションに帰るのはほとんどシャワーを浴び、寝るだけ。深夜に帰り、早朝に出勤する、ほとんどそんな毎日だった。
唯一のリフレッシュは、海岸マンションから大手町プライムスクウェアへの往復、愛車のバイクCB1100を走らせること、わずかな時間をみつけて、洋子を乗せてツーリングすることであった。入社に当り、UPGにバイクでの通勤についてOKをもらっていた。そしてそのためのパーキングスペースもUPGが提供してくれた。
マーケットがクローズした春の晴天の1日、出... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 4
2015-01-08
作:三島 真一原油価格急落大手町プライムスクウェア18階、深夜0時。ジェームスと出門はコンフェレンス・ルームにいた。コモディティ・グローバル・コンフェレンス・コール(商品セクターの世界電話会議)に、参加するためだ。ニューヨーク市場では、原油価格が50ドルを割り込み、半年間で50%強急落した。市場は動揺した。ニューヨーク株式市場が5%近く下落し、東京市場、アジア市場、欧州市場に連鎖した。市場はその影響の程度について消化しきれず、リスク回避に一斉に動いたのだ。 マイケル・リチャードソンが率いるニューヨーク・チームがいち早くレポートをまとめ世界に配信した。このコンフェレンス・コールはそれをうけて、各地域のアナリストが、その地域における需給見通し、企業業績への影響、株価への影響について意見交換し、UPGのクライアントへの提供に役立てるためのものだった。UPGの見解は概ね次の通りだ。米国におけるシェ... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 3
2015-01-05
作:三島 真一
投資銀行業界の掟(おきて)
ジェームスは、一束のリサーチレポートを出門に渡して言った。
“Jinichi, these will be helpful to you. And there will be a Global Commodity Sector Research conference call tonight with New York chaired by Michael Richardson, Global Head. I would like you to join it.” (甚一、これは役に立つだろう。それから、今晩、ニューヨークとグローバル・コモディティ・セクター・リサーチのコンフェレンス・コール(電話会議)がある。グローバル・ヘッドのマイケル・リチャードソンがまとめ役だ。参加して欲しい。)
それからジェームスは、UPGのコモディティ・セクター... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 2
2015-01-01
作:三島 真一
コモディティ(商品)・セクター
UPG証券入社初日、出門は大手町プライムスクエアの18階に7:00に出社した。ジェームスの部屋に入った。ジェームズは、笑顔を迎えてくれた。金融経済情報サービス会社ジュリアス通信の企画研究部門にいたとはいえ証券アナリストをしたことはない。にもかかわらずジェームズは出門をいきなりあるセクターの担当に指名した。それはコモディティ・セクターであった。後にはテクノロジーを担当することになる出門ではあったが、コモディティ・セクターのアナリストとして出発したのである。ジュリアス通信の金融情報サービス部門にいた出門ではあるがコモディティーの知識はなかった。出門は戸惑った。しかし、ジェームスは出門の戸惑いなどおかまいなしだった。ジェームスは出門の顔を見ていった。
“Jinichi, I’m glad you join UPG. I expect you ... → 続きを読む
アナリスト出門甚一の冒険 1
2015-01-01
作:三島 真一
UPG証券入社
大手町プライムスクエアの18階、外資系証券会社UPG証券の株式調査部テクノロジー担当のアナリスト出門甚一。慶南大学経済学部卒業後、イギリスの情報会社ジュリアス通信東京支社に入社した。ジュリアス通信は世界有数の通信社であるが、当時、コンピューターと通信ネットワークによる経済金融情報システムサービスを提供し、伝統的な通信社から経済金融情報システム会社へと変身していた。
企画開発部門8年間勤務した後、UPG証券のエクイティー・リサーチヘッド、ジェームズ・ヒルに誘われて入社した。ロンドン出張中にUPGの当時、日本株調査部門のジェームズに会ったのがきっかけであった。ジェームズはオックスフォード大学理工学部出身のエリートであったが、日本株の評価に独自の分析手法を編み出し、欧米の機関投資家に日本株のリサーチを提供し、頭角を現していた。日本の企業が株式持ち合いの影響を... → 続きを読む
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