‘経済・投資 Money’ カテゴリ
ケインズの投資について-10 米国証券投資 Keynes’ Investments-10 Investment in US Securities
2025-04-18
36-37年 生涯最高の稼ぎ
米国経済の回復
1936年、37年の2年は、前述したようにケインズの生涯でもっとも証券投資で儲けた年だ。一般理論の出版が1936年なので、理論と実践が結実した象徴的な年となった。勿論、良好なパフォーマンスの背景には世界経済の回復に伴う株式市場のリカバリーがある。
株式、商品で大きな利益 - 36年
36年は、為替・商品、証券投資共に好調で、為替で£12,362、商品で£36,009の利益を計上。証券投資は、ポンド証券で£30,169、ドル証券で$92,432(≒£18,560)の売却益を上げる。配当所得も£11,795、$19,219(≒£3,859)に及んだ。商品で£36,009と大きな利益を上げる。合計で約£113,535になる(£/$=4.98で換算)。“Currency converter 1270–2017” (nationalarchi... → 続きを読む
ケインズの投資について-9 米国証券投資 Keynes’ Investments-9 Investment in US Securities
2025-04-11
投資会社役員会の運営
イギリス人的皮肉
ケインズの前述33年11月23日の手紙に対して、F.C.スコットは、ケインズが同意しなかったという1930年以前の失敗した米国証券への投資に対して、当時、「君が反対したという記憶はないが」と皮肉混じりに答えている。そして、とにかくより重要なことは、これからどうなるかであって、現状、不確実性の高い米国市場(証券)から撤退することを少しも惜しいとは思わない、とイギリス人らしい、遠回しの皮肉な表現でケインズに伝えている。これに対してケインズは次の手紙をF.C.スコットに送っている。
運用方針の重要性 - 反対意見を尊重する
投資決定の役員会の運営におけるコミュニケーションの難しさを示している。ケインズは、自分の記憶では反対したことが、相手には伝わっていなかった。但し、ケインズは、投資会社の運営において重要なことは、運用方針の維持、継続であると述べ... → 続きを読む
ケインズの投資について-8 米国証券投資 Keynes’ Investments-8 Investment in US Securities
2025-04-08
米国証券への投資
ケインズは、1929年のニューヨーク市場の大暴落以降、むしろ米国証券へ積極的に投資した。プロヴィンシャルの中で、低迷する米国証券への投資に懐疑的な意見があった。それに対する反論が下記の書簡だ。この書簡から読み取れるのは、この段階(1930-33年)では、株式よりも、優先証券、カバードボンド*などが中心だったことだ。大恐慌からのリカバリーが不透明で、不確実性が高い中、ストレートな株式よりも、優先証券や、担保価値に着目した投資を採用したといえる。
イールドと資産価値に着目したバリュー投資
ここで示されたケインズの投資手法は、イールドと資産価値に着目した、バリュー投資であるといってよいだろう。
* カバードボンドとは、欧州発祥の担保付社債の一種で、住宅ローン債権などの極めてリスクの低い資産のプール(カバープール)を担保として発行される。投資家は発行体のデフォルト時に、発... → 続きを読む
ケインズの投資について-7 金鉱株投資 Keynes’ Investments-7 Investment in Gold Mining Shares
2025-03-05
上昇後も継続保有を主張
ケインズは、さらに8日後の8月23日にスコットに金株についての書簡を送った。スコットからの手紙(15日、16日)に対する返信だ。ここでケインズは、金鉱株(gold mining shares)と呼ばず、金株(gold shares)と言っている。分かりきったことだから省略したのだろうが、金の価値に着目していることを示している。南ア企業の中でも、ユニオン・コーポレーションの経営陣は、その価値を実現することにひときわ優れていると評価しているわけだ。かなりの上昇後も優れたイールドであり、継続保有を主張している。
市場の変動に振り回されるな
本書簡で、ケインズは、保有金鉱株について、①相当株価は上昇したが、なお、利回り(イールド)の観点からなお魅力あること、②1929年のニューヨーク株式市場大暴落の後、ルーズベルト大統領がニューデール政策により金本位制を一時的に停... → 続きを読む
ケインズの投資について-6 金鉱株投資 Keynes’ Investments-6 Investment in Gold Mining Shares
2025-03-03
ユニオン・コーポレーションへの投資
スコットがしぶしぶ承諾した投資
このケインズの手紙(2.9)に対して、F.C.スコットは、懸念を示しつつも1,000ポンド程の追加投資を渋々ながら認めた。ケインズが強く推奨する投資を、無碍にはできないというところだろう。17ヶ月月後の1934年8月15日にケインズはスコットに書簡を送り、ポジションの状況を伝えた。
ケインズは、ユニオン・コーポレーション社の企業価値、より端的には株式価値に着目して、同株への投資を推奨し、そのポジションを維持することが適当であると述べている。また、後に示す投資三原則その2、少数銘柄への集中投資の考え方を示している。
金本位制離脱後の南ア経済の予測と金の価値が前提
直接は書かれていないが、デイリー・メール紙の寄稿にあるように、金本位制を離脱後の南ア経済の良好な見通し、また金の価値に対する基本的な信認が前提になっている... → 続きを読む
ケインズの投資について-5 金鉱株投資 Keynes’ Investments-5 Investment in Gold Mining Shares
2025-02-23
ケインズが金本位制を、そして金をどうみたか?
ケインズは、F.C.スコットへの手紙で、金鉱株への投資は、金鉱脈を掘り当てるといった投機的目的ではなく、金本位制を離脱した南アの金鉱株、つまり金鉱会社の価値に、そしてそれはケインズの目から見て、値する資産価値を有している、という理由から投資しているという趣旨を述べている。つまり、投機ではなく投資だ、というふうに解してよいだろう。
金本位制は「野蛮な遺物」(barbarous relic)
ケインズが、スコットへの手紙で触れているデイリー・メール紙に掲載されたケインズの文章に、ケインズが「金本位制」をどうみているか、そして、より重要なことに、ケインズが「金」をどうみているか、を読み取ることができる。そこで、ケインズは、まず、金本位制を「野蛮な遺物」(barbarous relic)とかつて呼んだということからはじめている。
ここで、まず、... → 続きを読む
ケインズの投資について-4 金鉱株投資 Keynes’ Investments-4 Investment in Gold Mining Shares
2025-02-19
ケインズ初めての金鉱株投資 - 金鉱脈への投機ではない
ケインズの書簡を読んで、F.C.スコットは、ケインズのデイリー・メール紙への寄稿も読み、ケインズの見方、ロジック(論理)に一定の理解を示した。しかし、基本的には金鉱株投資には難色を示し、短期的な保有なら良しとした。これに対してケインズは、次のような書簡をスコットに送った。
『金鉱株に気が進まないということは良く理解しました。私もこれまで金鉱株を一株たりとも買ったことはなく、人に勧めたこともありません。昨月までは。しかし、最近の事態の進展は、主として金鉱株というよりも、新しい為替の状況に関わるものです。私はこのことについて良く理解しているといってよく、投資アイデアは、金鉱脈を掘り当てるという投機に関わるものではありません。今日、金鉱取引はよく発達し、日常化しています。課題は、掘り当てるかどうか、といった採掘に関する投機ではなく、... → 続きを読む
ケインズの投資について-3 金鉱株投資 Keynes’ Investments-3 Investment in Gold Mining Shares
2025-02-19
南ア金鉱株への投資
南アの金本位制離脱
ケインズは、1923年10月に、財務省時代の同僚フォークと共に、小さな同族経営プロヴィンシャル生命保険会社の役員となった。フォークというのはクセのある人物で、投資方針についてしばしばケインズと対立した。1930年にフォークが同社を去ると、ケインズが主として運用の責任を持つことになった。1933年に南アメリカが金本位制を離脱すると、ケインズは個人投資家として、南アの金鉱株を買い始めた。ほぼ同時に、ケインズはプロヴィンシャルでも金鉱株 (gold mining shares) への投資を始めた。
死の舞踏
同社の責任役員のフランシス・スコット等から驚きの声が上がった。スコットは、ケインズ宛の書簡で次のように述べている。
『プロヴィンシャルでの南ア金鉱株の購入について、少々驚いている。わたしは、インダストリアル・インデックスへの投資が好ましいと思... → 続きを読む
ケインズの投資について-2 Keynes’ Investments-2
2024-12-08
動と静 - 本質的価値に着目して動かず
ケインズの投資は、基本的には、借入金も駆使した極めてアクティブなものだ。但し、1930年10月から、1931年9月までの約1年間は、ケインズ自身、株式の売買をほとんど行っていない。この辺の事情は、ケインズのナショナル・ミューチュアル役員会への覚書で知ることができる。
ここで、「当面、静観するのが、最善の方策である」とし、保有銘柄を厳選した上で、本質的価値に照らして割安な保有株式を、売却すべきでない、という意見を表明している。ケインズの投資は、本質的には、「本質的価値」に着目したバリュー投資であり、トレンド分析に基づくテキニカルなトレードではないことを示している。
ナショナル・ミューチュアル役員会の覚書 1931年2月18日
全般的な見方についての覚書。マークス氏の依頼に基づき役員会のために作成。
現在、恐怖心理が蔓延していま... → 続きを読む
ケインズの投資について-1 Introduction to Keynes’ Investments-1
2024-12-06
アニマル・スピリッツ
ケインズは、経済学者として活動するかたわら、投資家として、株式、為替、商品に積極的に投資を行い、結果的に成功をおさめ、かなりの財をなした。その生の投資法―着眼点、センチメント、行動、決定、成果等―を明らかにするため、ケインズの書簡、シティでの運用ファンドの報告書、新聞、ジャーナリズムへの寄稿などをみてゆくことにしたい。投資、投機にあたっての生の声を聞くため、ケインズいわく、最後に大切なのは「アニマル・スピリッツ」(animal spirits)だからだ。
借金して為替投機 - マルク、フラン、リラをショート:着眼点は実質価値
まずは、1920年5月26日付け、アーネスト・カッセル卿(キョウ)への手紙。ケインズ、36才の時だ。為替の投機に関するもの。
(補足) 前年の1919年にパリ平和会議に大蔵省主席代表として、パリ平和会議に出席。対独賠償要求額をドイツの支払... → 続きを読む
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