アクティビスト(ノベル)

アクティビスト エリス・アセット・マネジメント

大量保有報告

出門は、今回のITバンク孫子正太郎の行動にはアクティビストの影響があると感じていた。確かに、4.5兆円に上る保有上場株式の売却という大胆な行動は、スケールの大きい正太郎ならではのものであるともいえる。しかし、そこにはいつもながらの大胆不敵さとは異なる、何かに追い立ててられているところがある、と感じたのである。

これは正太郎が必ずしも意識していることではないかもしれない。おそらく正太郎は、パンデミック下でのITバンクの投資先の企業の事業、財務をみて、企業家として、そして投資家として自らとるべき行動をとっているだけだ、と考えていた。また、問われればそう答えるだろう。

ITバンクの株主価値が過小評価されている、と孫子正太郎は、過去数年のIRプレゼンテーションで主張してきた。ITバンクの投資先であるITセクターのユニコーンのひとつ、ネットでオフィス・スペースのマッチングを行うOurOfficeが経営難におちいり、救済のための巨額の追加投資と融資が報じられたのは2019年第4四半期である。ITバンクの株価は急落した。

その時期にアクティビスト・ファンドとして知られるエリス・アセット・マネジメントがITバンク株の投資に踏み切り、5.1%の大量保有報告書を提出した。これは上場会社の株式の5%超を保有した場合に金融庁に提出が義務付けられたものだ。エリスは、ITバンクに保有上場有価証券を売却し、その資金で自社株買いを行い、ITバンクグループ株の過小評価の是正を求めたのだ。これは、まさに正太郎の主張を認めたものだ。

ゴーイングコンサーンと解散価値

違いは、正太郎は投資会社としてゴーイングコンサーン(永続企業)としてこのギャップを埋めようとしたのに対して、エリスは投資家としてITバンクの解散価値に着目した点にある。エリスは、ITバンクはその保有上場株式を売却してその現金を株主に還元せよ、と要求した。自社株買いは、株主への現金還元の一手段である。

正太郎もエリスもITバンクの株主価値については全く同意見だといってよい。その保有資産、保有上場株式の価値に対して、ITバンクの株価が著しく過小評価されている。しかし、そのギャップを埋める方法が2者では大きく異なった。ITバンクの孫子正太郎は、ゴーイングコンサーンの投資会社として、ITセクターへの投資によって、経済社会のIT革命を推し進め社会をより豊かにする、そこにシナジーを発揮し、ITバンクの価値をさらに高める、という理念で経営していた。これに対してエリスは、ITバンクの解散価値の実現をシンプルに求めた。価値の実現のために、ゴーイングコンサーンである必要はない。ITバンクが価値を実現できていなのなら、エリスがファンドとしてその価値の実現を求め、それによって得た資金を投資し、より有効に運用する、というものだった。

正太郎は不意をつかれた気がした。

(続く)

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