商品先物のリスクプレミアムと期間プレミアム( JAI Spring 2017)
「商品先物の時間の経過とともに変化するリスクプレミアムと期間プレミアム」(デニス・B・チャベス、シニア・アナリスト、ヴァンガード・クォンティタティブ・エクイティ・グループ、ペンシルバニア州モルバーン、ジャーナル・オブ・オルタナティブ・インベストメント、2017年春号: “Time-Varying Risk Premiums and Term Premiums in Commodity Futures”, by Denis B. Chaves, Senior Analyst at Vanguard’s Quantitative Equity Group in Malvern, PA. denis_chaves@vanguard.com, JAI Spring 2017)
本研究は、商品先物価格の期間構造に着目したもので、そこから抽出された情報に基づく2つのトレーディング戦略について述べており実践的に、また理論的に興味深い。以下、誤解を恐れずその要点をまとめ(詳細、正確には原典参照のこと)、最後に若干の感想を述べる。
先物価格の期間構造が持つ情報
先物価格の期間構造は、その傾き以上の重要な情報を含んでいる。債券に関する研究にあるように、期間構造のそれぞれのセグメントは、この付加的情報を抽出するために用いられる。例えば、期間構造の最初のセグメントが、第二のセグメントより急な勾配を持っている時には、最初の契約価格は、第二の契約価格より、より多く下落する傾向を持つ。この形状から利益を得るためのシンプルな戦略は、第二の契約にロング(買い)のポジションを持ち、第一の契約にショート(売り)のポジションを持つことである。長い期日の契約と短い期日の契約の期待リターンの差は、期間プレミアムと定義され、本研究が着目する重要な変数のひとつである。
期間構造がリターンに強い影響
先物価格の期間構造は、投資家のリターンに強い影響を与える。例えば、バックワーデーション(先物安)時の先物を買って、コンタンゴ(先物高)時に先物を得ることは、平均してもうかる戦略であることが知られている。言い換えれば、商品先物のリスクプレミアムは、時間経過と共にに変化し、期間構造(ベーシス又はロール・イールド)のスロープ(勾配)から予測することできる。右上がりの期間構造(コンタンゴ)では、契約価格(contract prices)は、契約価格は、満期に向かって時間の経過と共に下がる傾向がある。右下がり(バックワーデーション)の期間構造では、逆のことが言え、契約価格は、満期に近づくに従って上昇する傾向がある。
実務的視点:期間プレミアムに基づくトレーディング戦略のより高いシャープレシオ
実務的な視点から、リスクプレミアムと期間プレミアムが、時間経過の過程で、また異なるセクション間で予測可能かどうかを商品先物を使って検証する。異なる商品のリスク及び期間プレミアムに基づくトレーディング戦略を構築する。この結果、期間プレミアムに基づくトレーディング戦略のシャープレシオは、リスクプレミアムに基づくトレーディング戦略よりも、著しく高くなっていることが示された。さらに、この2つのタイプのトレーディング戦略は、お互いに相関していないため、この2つを結び付けたポートフォリオは、顕著な分散効果と、より高いシャープレシオを得ることができる。
理論的な視点:堅固な債券研究からの示唆
理論的な視点では、予測可能性のテストは、堅固な債券研究の蓄積に支えられており、本研究において先物契約の期間構造の検証において用いられている。このアプローチは、2つの重要な利点を持つ。第一は、変数の選択、本研究の予測可能性テストとトレーディング戦略がデータ操作の結果であるとする批判に対する反論となる。第二は、リスクと期間プレミアムの予測可能性が欠如していること自体が、理論的に興味深いということである。何故なら、それは、スポット価格の変化や、ベーシスの変化といった他の重要な変数の強い予測可能性を示唆するからである。
感想
超フラットな債券イールドカーブの代替投資としての商品先物の期間構造
「期間プレミアムに基づくトレーディング戦略のシャープレシオは、リスクプレミアムに基づくトレーディング戦略よりも、著しく高くなっていることが示された。さらに、この2つのタイプのトレーディング戦略は、お互いに相関していないため、この2つを結び付けたポートフォリオは、顕著な分散効果と、より高いシャープレシオを得ることができる。」がこの研究のポイントであろう。このようなシンプルなトレーディングで安定的なリターンを得ることができることを示唆している。期間構造の勾配、債券で言えばイールドカーブが立っていることが、より魅力的な投資機会となる条件であろう。イールドカーブが極端にフラットな日本の債券市場をふまえると、商品先物市場は、魅力的な投資対象のひとつとなる可能性を示唆していると言ってよいであろう。
以上
2017.6.4