エクイティ・マーケット・ニュートラルVIXポートフォリオ(JAI誌)
「ダイナミックCAPMに基づくエクイティ・マーケット・ニュートラルVIXポートフォリオの構築」J.チェン、M.L.ティンダール、ダラス連邦準備銀行(“Constructing Equity Market-Neutral VIX Portfolios with Dynamic CAPM”, J.Chen, M.L.Tindall, Federal Reserve Bank of Dallas, THE JOURNAL OF ALTERNATIVE INVESTMENT, FALL 2016)
ボラティリティとどう向き合うか
ボラティリティ(変動)とどう向き合うかが、株式投資において極めて重要であり、いかにより高い超過リターンあるいは絶対リターンを生み出すかを左右する、というのが最近特に感じることころである。リターンとボラティリティが負の相関関係にあることが観察されているが、とすればボラティリティを抑えることによって超過リターンを得られるかもしれない、という発想がでてくる。
高まるVIXへの関心
株式市場のボラティリティを表す指数としてVIXへの関心度が高まっている。上述のようにボラティリティがパフォーマンスに影響することもあるが、ボラティリティが高まるとオプション価格が上昇するので、オプション売買に妙味がでてくるといったこと等もある。
VIXは、CBOEで取引されているS&P500採用銘柄のオプションを時価加重平均した指数で、VIX指数自体は、取引されていないが、そのVIX指数先物は2004年3月26日に取引が開始された。そのオープン・インテレスト(未決済建玉)は取引開始以来大幅に増加している。
エクイティ・マーケット・ニュートラル(EMN)VIXポートフォリオ
同レポートは、時系列のβとαを(オペレーション・リサーチ的手法である)カルマンフィルター(以下KF)のアルゴリズムにより推計したダイナミックCAPMに基づくEMNポートフォリオの構築について述べている。コンピューターによって高速に執行されるロボット・トレーディングの1種であるといってよいであろう。
エクイティ・マーケット・ニュートラル(Equity Market Neutral)は、関連した株式のロングとショートのポジションをとることにより株式市場と相関しないパフォーマンスを作り出すポートフォリオ戦略であり、有力なヘッジファンド戦略の一つである。
同レポートは、ダラス連邦準備銀行の金融アナリストとオルタナティブ投資スペシャリストの共著であるが、米連銀のアナリストがボラティリティとロボット・トレーディングを研究していることも興味深い。
かなりテクニカルな内容なので、正確には同論文に直接当たっていただくことが必須であるが、ここでは、同リポートで印象に残った統計的数値ついて簡単に触れてみたい。
高いリターンと低いリスク
同レポートでは、2006年6月21日から2015年6月30日までの、いくつかのEMNポートフォリオのパフォーマンスを比較している(EXHIBIT 10)。KFによるポートフォリオの年率リターンが15.30%と高いのに対し、Static(静的な)EMNポートフォリオの年率リターンは6.01%である。ボラティリティは、KFが9.09%、Staticが9.25%でほぼ同レベル。シャープレシオは、KFが1.46なのに対し、Staticが0.53で、リスク当りのリターンが極めて高くなっている。ベータは、KFがー0.02、Staticが0.01でマーケット・ニュートラルが成立している。
これに対し、S&P500(2005/12/20-2015/6/30)は年率リターン5.33%、ボラティリティ20.89%、シャープレシオ0.19である。つまり、KFによるEMNポートフォリオへの投資は、S&P500へ投資するパッシブ運用よりもリターンも高く、リスクも低いということになる。実際上のリターンは諸手数料、運用報酬等を差し引いたものになる。
カルマンフィルターによる優位性
著者は、「KFによる同EMNポートフォリオが、その素早いリスポンスにより、複雑なVIXデリバティブのGreeks(係数)を計算し、VIXデリバティブをリスクマネジメントのために使うことを可能にした」と述べる。そして、「伝統的なEMNポートフォリオは、正常な価格関係からの乖離が正常に戻るという概念に依っている。しかし、この乖離は市場が不安点な状態にある時には広がる可能性がある。これに対し、我々のモデルは、このコンバージェンス(乖離が正常に戻る)という賭けに依存していない。伝統的なEMNポートフォリオにありがちな甚大な損失を避けることが可能になるかもしれない」としている。
ロボット・トレーディングの問題点
EMN戦略への投資は、投資信託などを通してできる。KFによるEMN戦略も出てくるであろうし、既に存在するかもしれない。ただし、ロボット・トレーディングの懸念は超過リターンを生み出している市場の非効率性が、永続的に保たれることは考えにくいし、それがいつ無くなるかについて予測が難しいことである。
バリュー投資への示唆
この戦略が超過リターンを現在得ていることは、バリュー投資の視点からも留意すべきポイントといえる。
以上
2016.12.18