日本の人口減少悲観論と日本株悲観論の誤り

2016-07-17

人口減少と日本経済

「視点・自分たち自身の課題」(白川方明 青山学院大学教授・日本銀行前総裁、証券アナリストジャーナル2016.7)で、白川氏は、人口動態と日本経済の成長性、財政問題について、エコノミストの視点から本質的な視点を提供してくれている。今回は、この白川氏の指摘をたたき台にさせていただいて、感じるところを述べたい。白川氏の視点のポイントは、以下の3点だろう。

労働投入量減少の逆風

1. 2000年移行15年間の生産年齢人口一人当たり平均実質GDP成長率が最も高いのは実は日本である。しかし、実質GDP成長率は最も低いグループに属する。これは、生産年齢人口(労働投入量)減少の逆風が大きいため。日本の潜在成長率は0%前半と推定さる。生産性上昇、女性や高齢者の労働参加率上昇が必要であるが、労働投入量の減少に相殺されてしまう。

「安全・安心・清潔・正確という価値の追求」の問題

2. 日本の社会が追求してきたのは「安全・安心・清潔・正確という価値の追求」(堺屋太一氏によれば)であり、この面では世界に例を見ない成功を収めた。しかし、この価値の追求には経済コストがかかっており、また規制緩和が進まない要因にもなっている。また、財政維持可能性への信任は通貨価値安定の最大の前提条件であり、財政バランス改善は喫緊の課題である。

規制緩和、財政改革の必要性

3. 規制緩和、財政改革が加速しないと、肝心の国民一人当たりの所得の伸びも低下する懸念があり、「GDPがすべてではない」というのも贅沢な議論になってしまう。国、企業、個人が真の課題を認識し、正面から向き合い取り組むことが必要である。

日本の人口減少悲観論と日本株悲観論の誤り

日本の人口動態から日本株投資についても悲観的な見方が外国人投資家を含め多いように思う。私はこれは基本的に間違っていると思う。そして、それがゆえに日本株は割安な水準に放置されているように感じる。私の基本的論点は以下の3つである。 

日本の人口減少は豊かさを追求する人々の合理的選択

1.そもそも現在の日本の人口減少は、豊さ、高い1人あたりの国民所得を維持しようとする人々の極めて合理的な行動である、ということである。日本とほぼ同等の国土面積をもつ先進国の人口密度を比較してみよう。世界銀行(World Bank)によれば、2014年の日本の人口密度(人/㎢)は348.72であり、ドイツの1.5倍、イギリスの1.3倍、スウェーデンの10.5倍(参考: 米国の10倍)と高くなっている、つまり、国土に比して人口が多いのである。

また、1人当たり購買力平価(実質購買力)ベースのGDP(IMF, 2014年)では、日本は、ドイツの81%、イギリスの92%、スウェーデンの79%(参考: 米国の68%)とより低くなっている。つまり、一人当りの豊かさ(所得)で劣っている、ということである。

くりかえしになるが、これらの数字から言えるのは、先進国の中で、日本は国土に比して人口が多く、一人当たりの豊かさでは劣っているということである。

土地の供給は増やすことができない。当然のことながら、土地という限られた生産要素に労働投入量を増やせば、収穫逓減(the law of diminishing return)が働き、1人当りの国民所得は下がることになるだろう。人口増に悩む多くの国が、低い1人当たり国民所得に直面する原因の一つとして収穫逓減の法則が働いている可能性がある。

つまり、一人当たりの子供の数を増やせというのは、一人当りの生活水準を下げろ、といっているに等しくなりかねない懸念がある。また、女性の社会進出を促すのは、男女同等の人権という点、またダイバーシティ(多様性)の面からは正しいものの、一方で女性に過度な労働、家庭内等サービスの提供を促し、また男女の分業のメリットを損なう懸念があることについても配慮すべきではないだろうか。

日本が取るべき政策目標は、一人当たりGDPの向上

2. 日本が取るべき政策目標は、一人当たりGDPの向上、つまり豊かさの増進であり、単純なGDPの成長ではない。一人当たりGDPの成長を促すことによりGDPの成長を図るべきなのである。そのためには、やはり労働生産性を高めることが必須である。そのためには、資本投入量を増やすことが必要であり、より重要なのは、テクノロジー、経済的、社会的なイノベーション(革新)を促すことである。

また、市場メカニズムを発揮させるという観点から、本源的な生産要素の一つである労働の自由な移動、つまり移民に前向きになるべきことは言うまでもない。一方、「安全・安心・清潔・正確」というのは、日本の国際競争力の源泉であり、比較優位の要因であることに十分配慮する必要がある。

人口減少=日本株悲観論の誤り: 日本経済=日本株ではない

3.海外投資家を含め、多くの投資家が少子高齢化、人口減少を理由に日本株に悲観的になっている。しかし、日本経済=日本株でないことに留意する必要がある。経済成長は、供給能力に制約されることは確かである。しかし、投資対象は、日本経済ではなく、日本株である。多くの日本企業が、販売、生産の成長機会を国内のみならず、海外、グローバル市場に求めている。日本の家計、企業は貯蓄超過である。つまり、投資余力がある。日本企業は積極的に海外投資を増やし、グローバル化を図りつつある。80円前後の円高期に積極的に海外投資をした日本企業の戦略は基本的に正しい。但し、日本企業は海外での経営ノウハウについて課題がある。しかし、この克服は避けて通れない道である。

市場経済、国際分業は世界平和への道

また、自国を閉ざしたままで、日本企業のグローバル化はできないであろう。その意味で、移民を含め、日本の比較優位に配慮した上で、国内経済のグローバル化は必須である。

国際分業の進展は、世界平和への道でもある。封建制のもとでは、他国の侵略、征服、破壊が自国の利益に結び付いた。しかし、国際分業の進んだ市場経済は、相互依存のシステムであり、世界平和へのエンジンである。

2016.7.17

 

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