プライベート・エクイティへの直接投資についての一考察
プライベート・エクイティへの直接投資についての一考察
(“A Note on Direct Investment in Private Equity”, Ludovic Phalippou, ‘Alternative Investment Analyst Review Q1 2016 Vol 4. Issue 4’)
本稿は、「オルタナティブ投資アナリストレビュー」誌2016年第1四半期4号(‘Alternative Investment Analyst Review Q1 2016 Vol 4.’)に掲載された、プライベートエクイティへの直接投資についての小論である。著者は、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール准教授ルドヴィック・ファリポウ氏。
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大手機関投資家はなぜプライベート・エクイティへ投資するのか?
大手機関投資家はなぜプライベートエクイティ(PE)に直接投資するのか、そして取引コストに焦点をあて考察をしている。実践的投資家の立場から実に興味深い内容である。
筆者(中湖)は常日頃、多くの場合、上場株式、市場性のある債券(一部の私募債を含む)を通して疑似的なオルタナティブ投資は可能であると感じているし、実践している。例えば、財務レバレッジを効かせたいのであれば、自ら借入れを行うより、レバレッジの効いた企業の株式、コモディティーへのエクスポージャを高めたいのであれば商社株、ボラティリティーに投資したいのであれば仕組債に投資する、といった具合である。
上場株、債券への投資で疑似的オルタナティブ投資は可能だが・・・
発想を柔軟にすることにより、個人投資家は上場株式、債券を通した疑似的なオルタナティブ投資は可能である。それにより投資規模(PEに直接投資するとなると、相当規模の資金が必要になる)の問題を解消できる、デュー・ディリジェンスや取引コストを削減できる、また、情報開示、トランスパランシーの問題を克服でき、取引の安全性を確保できるのである。
ファリポウ氏は言う。「年金、ソブリンファンド等の大手機関投資家は、しばしば債券や上場株といった伝統的な資産以外の資産(つまり、代替=オルタナティブ資産; 筆者注)に投資したがる。その主たる理由は、分散効果を享受するためであり、オルタナティブ投資の理論、論理はよく理解されている。しかし、実際には、分散効果を測定することを難しいし、多くの場合、オルタナティブ資産への分散投資にかかる費用を十分考慮していない。」
フィーが高すぎる?
ファリポウ氏は、オルタナティブ投資にかかるコストに焦点をあてている。これは実践的投資にあたって、実に鋭く、的を得た視点である。
ファリポウ氏は、大手の機関投資家がオルタナティブ資産へ直接投資する実際的な理由として、投資すべき資産の規模が極めて大きいことを挙げている。つまり、上場株式、債券に投資される場合のマーケットインパクトは極めて大きいものになる。理論的な分析はしばしば流動性の問題を無視している、と筆者も感じている。理論的な分析ではしばしば「取引コストを無視すると・・・」という仮定がおかれることが多い。しかし、実際の投資の世界では取引コストはリターンに甚大な影響を与える。つまり、「取引コストを無視すると」という仮定自体が、非現実的である(かといって、筆者は理論的研究が無益であるとは言うつもりはない。ただし、取引コストを無視して実際の投資は成り立たないのである。)
大手機関投資家にとりオルタナティブ投資は必要不可欠: 投資すべき資産が巨額なゆえに・・・
「いずれにしても」とファリポウ氏は言う、「大手の機関投資家は、オルタナティブ資産に投資する必要があり、投資したいのである」と。そして、プライベート・エクイティ・ファンドは、固定フィー、パフォーマンス・フィーを徴収し、それは多層にわたり、構造は複雑で、資産保有者にとってフィーを測定することはしばしば難しい、と述べる。
例えば、LBOファンドは、平均して年7%のフィーを徴収するが、これは極めて高いレベルであり、しかも、そのフィーの半分程度はパフォーマンスにかかわりなく徴収されるというのである。
フィーの削減の追及: PEへの共同投資、インハウスチーム・・・
そして、ファリポウ氏は、今後、大手の機関投資家は、プライベート・エクイティ・ファンドにフィーの削減を要求することになるだろう、と述べる。しかし、実質的なフィーの削減は、多様な形態をとりうる、としている。その1つのやり方が、プライベート・エクイティー・ファンドへの共同投資(co-investment)である。つまり、プライベート・エイクティ・ファンドのジェネラル・パートナー(GP)が、機関投資家を追加的なフィーを徴収することなく、共同投資家として招くわけである。これは、実質的なフィーの削減といえる。
また、フィー削減の一形態として、機関投資家がインハウスのプライベート・エクイティ投資チームを持つ、というものがある。これにより、プライベート・エクイティ・ファンドをバイパスし、直接プライベート・エクイティに投資するのである。もっとも、これには、ヒューマン・キャピタル(人的資本)の観点からの課題もある、という。つまり、有能なプロフェッショナル、人材を確保するには相当なコストがかかる、という課題である。逆に言えば、インハウスの人材のコストが7%を超えなければ、プライベート・エクイティ・ファンドに投資するよりも結果的なパフォーマンスは良くなる、ともいえる。もっとも、このコストが固定化すれば、より高いコストになることになり、プライベート・エクイティー・ファンドに投資した方が良い、ということもあるかもしれない。
ビッグバン
いずれにしても、プライベート・エクイティ業界は現在、ビッグバンともいえる状況にあり、PEと大手機関投資家の区別はあいまいになってきている。機関投資家は、真剣にステークホールダーにとってもっとも良い方法を必死に探っている、とフィリポウ氏は言う。
以上
2016.3.27