英語セミナー(4) シットコム2 Fawlty Towers

“Fawlty Towers” 「間違いだらけのホテル」イギリス・シットコムの最高傑作のひとつ

イギリスのシットコムの最高傑作のひとつと言われる作品に”Fawlty Towers”があります。”Fawlty Towers”は「間違いだらけのホテル」とでも訳したらよいでしょう。元モンティ・パイソンのジョン・クリーズが主役で、イングランド南西部のトーキーにあるホテルのオーナー兼マネージャーであるバジル・フォルティを演じます。バジルとその妻のシビル、ウェイトレスのコーニー、スペイン出身で英語が喋れないウェイターのマヌエルがドタバタコメディーを繰り広げます。BBCで、1975年にシリーズ1の6話、1979年にシリーズ2の6話、全12話が放映されました。日本でも、東京12チャンネル(現在のテレビ東京)で、「Mr.チョンボ危機乱発」の邦題で放映されました。

ユーモア、笑いは階級を超える: 例えばモンティ・パイソン、ジョン・レノン

余談ですが、元モンティ・パイソンのジョン・クリーズはケンブリッジ大学で法学を学んだ元弁護士。同じくモンティ・パイソンの主要メンバーであるグレアム・チャップマンは、ケンブリッジ大学で医学、マイケル・ペインはオックスフォード大学で歴史学を学んでいる等、モンティ・パイソンは超インテリ・コメディ・グループです。ちなみに、「ミスター・ビーン」で有名なローワン・アトキンソンもオックスフォード大学の理学修士です。

コメディー、笑い、ユーモア、風刺が、イギリス人にとっていかに重要なものであるか、イギリスがイギリスたるべくために必要な要素、「イギリス的な、あまりにイギリス的な」ものなのです。笑い、ユーモア、風刺に対する、イギリス人のなみなみならぬ思い、姿勢があります。イギリスにおいては、こと笑いに関しては、階級の区別は無いといってよいしょう。

ジョン・レノンは、”The Beatles Live at the BBC”というBBCが編集制作したアルバムの中の自己紹介で、リンゴが “I’m Ringo and I play the drums.” (僕はリンゴ。僕はドラムをたたく)、ポールが “I’m Paul and I play the bass.” (僕はポール。僕はベースを弾く)、ジョージが “I’m George and I play the guitar.” (僕はジョージ。僕はギターを弾く)と言った後、 ”I’m John and I too play the guitar. Sometimes I paly the fool.” (僕はジョン。僕もギターを弾く。時々、馬鹿も弾くよ) とジョークを飛ばしています。ジョン・レノンは、イギリス労働者階級出身であることを自任していますが、彼がヒーローであるゆえんは、音楽の天才であると同時に、ジョーク、ユーモアのセンスを持っていたことにもよると思います。

ユーモア、笑いはイギリス人の「自由への意志」の表れ

つまり、ユーモア、ジョーク、コメディ、風刺、笑いは「自由な精神」のあらわれであり、自由を求める気質、気概であり、「自由への意志」であるといえるでしょう。笑い、風刺が英国文学の特徴であり、本質のひとつであることにも通じることです。イギリスには、シェイクスピアの”The Comedy of Errors”他の喜劇、フィールディングの”The History of Tom Jones”、ロレンス・スターンの”Tristram Shandy”、スイフトの”Gulliver’s Travel”(ガリバー旅行記)、ディッケンズの”Pickwick Papers”等々、連綿と続くユーモア、風刺、コミック文学の伝統があります。

誤解を恐れずに言えば、一般にイギリスのシットコムは、良くも悪しくもひとひねり、風刺、毒があるといえます。”Fawlty Towers”の笑いのパターンの一つに、あえてタブーに触れる、切り込むというものがあります。例えば、イギリス人のドイツ人やスペイン人に対する歴史的な関係、偏見を露骨にネタにしたものです。”Fawlty Towers”は、思わず腹を抱えて笑ってしまう場面が多いのですが、70年代のコメディーということで、やはり、時代背景の違いを感じるところがないではありません。しかし、イギリス・シットコムの最高傑作の一つであることは確かです。

エピソード”Communications Problems” (コミュニケーションの問題)の一端

”Fawlty Towers”のエピソードはそれぞれ面白いのですが、その中でも、特に好きな”Communication Problems”というエピソードの一端を紹介しましょう。

フォルティ・タワー(ホテル)にリチャーズ夫人という耳の遠いシニアの女性が宿泊します。文字を読むためにメガネ(老眼鏡)も必要です。耳が遠く、メガネが必要になることからコミュニケーションの食い違いが生じます。疑問符の”What”を、人の名前”Watt”と聞き間違う、”Write (書く)”を、”Fight (戦う)”と聞き間違う、リチャーズ夫人は大柄で、自分の意見をはっきりと言う少々恐持てする女性です。部屋にトイレットペーパーが無く、レセプションでクレームをつけます。その時の会話です。

Mrs Richards: Manager! (リチャーズ夫人: このホテルのマネージャーを出して!)
Polly: Just enough for one? Tell me. (ポリー: 紙は一人分でよいのでしょうか。おっしゃってください)
Mrs Richards: Manager! Manager! (リチャーズ夫人: マネージャーはどこ、マネージャーを出して!)
Basil: Yes? Testing, testing… (バジル: [キッチンからでてきて] はい、テスト中です、テスト中・・・)
Mrs Richards: There you are!  I’ve never met such indolence in all my life.  I come down here to get some lavatory paper and she starts asking me the most insulting…personal… things I ever heard in my life.
(リチャーズ夫人: あなたいたの! こんな侮辱を受けたのははじめてよ。トイレットペーパーを頼みに来たら、ひどい侮辱を受けたわ)
Polly: (To Basil)I thought she wanted writing paper. (ポリー:  私はリチャーズ夫人が書く紙を欲しいと思ったの) 
Mrs Richards: I’m talking to you, Watt. (リチャーズ夫人: 私はあんたに話してるのよ、ワットさん)
Basil: … Watt? (バジル: ワットって?)
Mrs Richards: As you deaf? I said I’m talking to you. I’ve never met such insolence in my life. She said people use it in the lounge. (リチャーズ夫人: あんた耳が遠いの? 私はあんたに言ってるのよ。私はこんな侮辱を受けたのは人生で初めてよ。彼女はみんなトイレットペーパーをラウンジで使ってるって言ったのよ)
Basil: Yes, yes, she thought you… (バジル: 多分、ポリーが言おうとしたのは・・・)
Mrs Richards: … Then she starts asking me the most… (リチャーズ夫人: そしたら彼女は侮辱的なことを言いはじめたわ)
Basil: No, no, please listen. (バジル: リチャーズ夫人、ちょっと聞いてください)
Mrs Richards: … appauling questions… (リチャーズ夫人: ひどい侮辱的な質問を)
Basil: Please. I can explain!… (バジル: どうか説明させてください)
Mrs Richards: …about…about…. (リチャーズ夫人: 何について?)
Basil: … No, no, look, you see… she thought you wanted to write. (バジル: 違います、違います。彼女はあなたが何か書きたいと思ったのですよ)
Mrs Richards: Wanted a fight? I’ll give her a fight all right. (リチャーズ夫人: 何、私と戦い[fight]たいって? いいでしょう。私は彼女と戦うわ)
Basil: No, no, no, wanted to write. (バジル: 違います、違います。あなたが書きたい[write]と思ったのです)
Mrs Richards: …. What? (リチャーズ夫人: 何ですって?)
Basil: Wanted to write. On the paper. (バジル: 違います、ポリーはあなたが紙に書きたいと思ったのです)
Mrs Richards: … Why should I want to write on it? (リチャーズ夫人: なぜ私がそこに書きたいと思ったの?)
Basil: Oh! I’ll have some sent up to your room immediately. Mnuel! (わかりました。人をあなたの部屋に伺わせます。マニエル!)
Mrs Richards: That doesn’t work either. What were you saying just then? (リチャーズ夫人: そんなことしても駄目よ。あなた、今なんて言ったの?)
Basil: Oh… turn it on! (バジル: 補聴器のスイッチを入れてください!)
Mrs Richards: What? (リチャーズ夫人: 何ですって?)
Basil: Turn it… Turn… it … on. (バジル: スイッチを入れてください。スイッチを・・・[と紙に書く])
Mrs Richards: I can’t read that. I need my glasses! Where are they? (リチャーズ夫人: なんて書いたの。読めないわ。メガネが必要なのよ。メガネどこいったかしら)
Polly: They’re on you head, Mrs Richards. (ポリー: リチャーズ夫人、メガネは頭に乗っかってますよ)
Mrs Richards: I’ve lost them. They’re the only pair I’ve got. I can’t read a thing without them. (リチャーズ夫人: メガネを無くしてしまったわ。ひとつしか持ってないのに)
Basil: Excuse me… (バジル: あの、失礼しますが・・・)
Mrs Richards: Now, I had them this morning when I was buying the vase. I put them on to look at it. And I had them at tea-time. (リチャーズ夫人: さて、今朝、私が花瓶を買った時にはかけていたわ。それを見るためにかけたのよ。そして、お茶の時間にも持っていたわ)
Basil: … Mrs Richards… (バジル: あの、リチャーズ夫人・・・)
Polly: … Mrs Richards… Your glasses are there. (ポリー: リチャーズ夫人。あなたのメガネはそこ[there; 頭の上]にありますよ)
Mrs Richards: There? Well, who put them in there? (リチャーズ夫人: そこ[there]って?)
Polly: … No! (ポリー: 違う、そこじゃなくって)
Basil: No, no, no, on your head…. On  your… look… on… on your head!! (バジル: 違う、違う、あなたの頭の上です。頭の上だっていってるでしょう!)
Mrs Richards: What? (リチャーズ夫人: 何ですって?)
Polly: I’m sorry about that, Mr Fawlty… Manuel aked me to give this to you. (ポリー: すみません、リチャーズ夫人。フォルティさん、マヌエルがこれをあなたに渡せって)
Basil: Oh! Thank you, Polly. Er… Polly… not a word to the dragon, eh? (バジル: ありがとう、ポリー。あの、ポリー、あのドラゴン[リチャーズ夫人のこと]には言葉は通じないよ)
Polly: Manuel, get some loo paper, muchos, for twenty-two. (ポリー: マヌエル、トイレットペーパーを22号室に持っていって)
Mrs Richards: Are you blind? They were on my head all the time. Didn’t you see? (リチャーズ夫人: あんた達は目が悪いの? 私はずっとメガネを頭の上ににかけたのになぜ言ってくれなかったの?)
Polly: Yes. (ポリー: はい、何でしょう)
Mrs Richards: Didn’t God give you eyes? (リチャーズ夫人: 神さまはあなたに目をくれなかったの?)
Polly: Yes, but I don’t use them ‘cos it wears the batteries out. (ポリー: くれました。でも電源が切れているので使ってなかったのです)
Mrs Richards: Send my paper up immediately. (リチャーズ夫人: しょうがないわね。トイレットペーパーをすぐに部屋へ持ってきてちょうだい)

アメリカのシットコムはミルクチョコレート、イギリスのシットコムはビターチョコレートの味

最後に、個々の作品にもよりますが、一般的には先に紹介した”FRIENDS”にみられるようにアメリカのシットコムは、大きさを感じます。大らかであり、底抜けに明るい。一方、イギリスのシットコムは、ひねり、苦みがあります。少々とっつきにくいが、これもまた捨てがたい。チョコレートでいえばミルクチョコレートとビターチョコレートの違いと言えるかもしれません。このような違いを味わうのもまた楽しいことです。やはり、笑いは、世界共通のものであると同時に、地域、国、民族の歴史や文化、伝統に根差したものでもあります。様々な笑いの違いを味わうのもシットコムの楽しみ方のひとつと言えるでしょう。

以上

【価格時点】:n.a.



有料コンテンツお申込はこちらからお願いします。


お名前 (必須)

メールアドレス (必須)

お電話番号

ご希望の資料タイトル、ご質問などをご記入ください。

Copyright© 2024 株式会社ジー・シー・エス(GCS) 中湖康太 経済投資コラム All Rights Reserved.