ケインズの投資について-10 米国証券投資 Keynes’ Investments-10 Investment in US Securities

中湖 康太

36-37年 生涯最高の稼ぎ

米国経済の回復

 1936年、37年の2年は、前述したようにケインズの生涯でもっとも証券投資で儲けた年だ。一般理論の出版が1936年なので、理論と実践が結実した象徴的な年となった。勿論、良好なパフォーマンスの背景には世界経済の回復に伴う株式市場のリカバリーがある。

株式、商品で大きな利益 – 36年

 36年は、為替・商品、証券投資共に好調で、為替で£12,362、商品で£36,009の利益を計上。証券投資は、ポンド証券で£30,169、ドル証券で$92,432(≒£18,560)の売却益を上げる。配当所得も£11,795、$19,219(≒£3,859)に及んだ。商品で£36,009と大きな利益を上げる。合計で約£113,535になる(£/$=4.98で換算)。“Currency converter 1270–2017” (nationalarchives.gov.uk)で、2017年のポンド価値に換算すると、£5,751,659程、2017年の平均ポンド円為替レート145円で換算すると約8億3,400万円となる。

証券所得生涯最高、しかし商品で損失 – 37年

 37 年の証券投資による所得は、生涯で最高の年となった。ポンド証券売却益£54,884、ドル証券売却益$234,097を計上、配当所得は£17,353、$37,884。但し、商品では£8,141の損失、その他(投機)で£2,299の損失を計上している。合計£118,013程の所得となる。同じく、2017年のポンド価値に換算すると約8億6,700万円だ。

 36,37年の2年間で約17億円(2017年ポンド価値、ポンド円換算レート145円ベース)稼いだことになる。これは、今日の超富裕層の稼ぎとはいえないだろうが、学者、個人投資家の年間の稼ぎとしては、かなりのものと見てよいだろう。

米国市場への強気と後半の調整

 次のF.C.スコット宛1936年12月3日付の書簡はこの辺の事情を物語っている。米国経済の好調さが当面続くだろうと述べ、優先株、債券から限界的な株式へのより一層のシフトを促し、リスク選好が高まったことを示している。証券所得は、36、37年に生涯最高となったわけだ。但し、DJのヒストリカル・チャートが示すように、37年後半には株式市場は調整局面を迎え、ケインズも商品では損失を被っている。商品価格への強気の読みが外れた形になった。この資産価格の下落を反映し、ケインズの純資産は、36年£506,662から、37年£215,244に減少している。

F.C.スコットへの書簡 (1936年12月3日)

商品に強気

米国経済の回復を止めるものは当面ないように感じます、現在の状況を踏まえるなら、年末までに投資の在り方を大幅に改定するのが賢明だと思います。

もし、米国のこのような本格的な回復が続くなら、その影響は他の何よりも甚だ大きくなるでしょう。特に、さらなる米国経済の回復は、商品価格をさらなる著しい上昇をもたらすと思います。英国のイニシアティブで状況が変わることについて、わたしは懐疑的です、勿論、現在の政策が大幅に変わることがなければの話です。米国経済が改善する中での強い商品価格は、当面続くでしょう。

リスク選好の高まり

米国資産の運用について当面の方策は、これまで成功して保有していた優先株と債券を、近日中に売却し、その資金の1部を限界的な株式投資信託などに再投資するのがよいでしょう。我々は既にかなり(といってもそれほど多くとも言えませんが)の株式投資信託を保有しています、市場が下落する時には、それは限界的なものであるが故に、必然的に投機的なものにはなります。このような方針についてどう思われるでしょうか? わたしの感じでは、米国のポジションについて少なくとも、あと6か月ほど保有し、もし、投下資金を減らしたいなら、より限界的な株式にシフトするのが賢明なやり方ではないかと思います。

From a letter to F.C. Scott, 3 December 1936

 My feeling is that nothing can really stop improvement in America in the coming months, though, so far as we can see now, it will be prudent to revise one’s investments very considerably before the end of the year.

 If such a substantial recovery in America duly comes to pass, I think that this should outweigh all other influences in sustaining the situation elsewhere. This will be the case particularly if, as seems to me not unlikely, a further recovery in America should bring about a more definite upturn in the prices of commodities than has occurred hitherto. I am a little sceptical of Great Britain moving further forward on her own initiative, assuming, of course, that existing policies are substantially unchanged. But strong commodity prices based on the improving position in America should certainly hold the position.

 As regards immediate policy as to American holdings, I am beginning to think that the preferred stocks and bonds, which we have held successfully up to date, might be sold fairly soon and that a portion of the proceeds might be reinvested (or even invested a little in advance of the sales of the others) in more marginal securities such as the common stocks of the investment trusts. We already have a fair, though not a very large, holding of the latter, and when the markets turn downwards they are a hopeless market and, being marginal stocks, are necessarily somewhat speculative. How would you feel about the above policy in the light of this? My feeling is that we ought to try to participate in the American position at least another six months, but that, if we could do it with less capital engaged there by moving into more marginal stocks, this might be a sensible thing to do.

 

By Kota Nakako

2025/04/18

 

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