新・利他の経済学-6 The New Economics of Altruism
新・利他の経済学-6 The New Economics of Altruism – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)
国際貿易
自由貿易の利益
自由貿易は一国の豊かさ、総余剰を高めることになります。総余剰(Total Surplus)は、消費者余剰、生産者余剰、政府余剰を合わせたものです。自由貿易は、まさにアダム・スミスがいうように「諸国民の富」、地球的総余剰を高めることになるのです。
◎ 一国の 総余剰こそ 貿易の 利益を得てぞ 拡大せしむ (経済学短歌)
◎ 閉鎖的 貿易主義は 一国の 余剰減らすの 原則を知れ (経済学短歌)
◎ 自由なる 貿易こそは 万国の 総余剰をば 拡大せしむ (経済学短歌)
まずは閉鎖経済の余剰分析からはじめましょう。X財市場についてです。下図は、閉鎖経済の総余剰を示したものです。貿易のない閉鎖経済の総余剰は△abEdになります。ここで、△aPdEdは消費者余剰、△PdbEdは国内の生産者余剰です。つまり、△abEd = △aPdEd + △PdbEd になります。DDdは、X財の国内の需要曲線、SSdは、X財の国内の供給曲線です。X財の均衡価格はPd、均衡生産量はXdになります。
開放経済、自由貿易のX財市場の総余剰をみましょう(下図)。ここでは、X財の国際価格はPwです。ここでは、Pw < Pd とします。Pdは国内価格です。つまり、国際価格は国内価格よりも低いということ。開放経済の供給曲線はSSfで線分bcEfを通ります。ここで、線分bcは国内生産者の供給曲線です。DDdが国内の需要曲線。均衡点はEfになります。均衡生産量はXfとなり、閉鎖経済の均衡生産量Xdよりも大きくなります(Xf > Xd)。
開放経済の総余剰は、□abcEfになります。ここで、△aPwEfが消費者余剰、△Pwbcが国内の生産者余剰です。これを、閉鎖経済の総余剰△abEdとくらべると、明らかに□abcEf > △abEd、つまり開放経済の総余剰が、△EdcEf 大きくなっています。これが自由貿易の利益です。特に、消費者余剰が、閉鎖経済の△aPdEdに対して、△aPwEfと大幅に大きくなっています。つまり、安価な輸入品により消費者がより大きな利益をうることを意味しています。
一方、国内の生産者余剰は、閉鎖経済の△PdbEd から△Pwbc とかなり小さくなっています。これが、国内生産者から自由貿易、安い輸入品が入ることに対する反対につながるわけです。これが、国内生産者を保護を目的とした保護貿易の主張がでてくる理由です。いずれにしても自由貿易の総余剰は、閉鎖経済の総余剰よりも大きくなる、ということをおさえることが重要です。
自由貿易と比べた場合の総余剰の減少は、△EdcEf になります。
保護貿易 ー 関税
関税による保護貿易についての総余剰分析を行います。輸入が入らないようにするため関税Tを課す、つまりPd = Pw +T というケースについて扱います。この場合、結果的には閉鎖経済と同じ総余剰になります。均衡点は、Edです。X財の需要(供給)量はXt (= Xd)で、開放経済のXf より減少します。その結果、総余剰は開放経済よりも△EdcEf だけ小さくなります。ここでは単純化のために関税Tは閉鎖経済の需要(供給)量同等になるよりに設定しています。いずれにしても、関税により(Pw < Pdの場合には)総余剰は減少します。
関税の目的は、通常、国内生産者の保護で行われます。これにより生産者余剰は維持されるでしょう。しかしながら、それは開放経済の場合よりも△EdcEf の消費者余剰の減少をもたらすということになります。くりかえしになりますが、閉鎖経済、関税による保護貿易の総余剰は小さく、消費者余剰を減少させることになるのです。
◎ 関税で 保護貿易の 弊害は 国全体の 余剰を減らす (経済学短歌)
◎ 関税は 産業保護が 目的も 消費者余剰(利益) 損なうと知れ (経済学短歌)
保護貿易 ー 補助金
食料の場合には、安全保障上の理由で国内生産力を維持するということが考えられます。世界的な食料ひっ迫の場合には、他国は国内需要を満たすことを優先するため、輸入量を確保できない可能性があります。
その場合は、国内生産力の維持のため、関税の他に、国内生産者への生産補助金が考えられます。つまり、X財の国際価格Pw と国内価格Pd の差額 (= Pd – Pw) を、X財生産1単位当たりに補助金として生産者に政府が支払うというものです。すると、国際価格Pw の下で、国内生産(供給)量がXd になる、つまり閉鎖経済の場合と同じになります。輸入量は (Xf – Xd) です。生産者補助金の場合の総余剰は、△abEd + △EdgEf になります。これは、閉鎖経済、関税T (= Pd – Pw; X財1単位当たり)による保護貿易の場合より、△EdgEf だけ大きくなります。
つまり、食料(例えば米)の国内生産を維持するためには、生産者補助金の方が、関税による保護貿易の場合より、総余剰が大きくなるのです。これは、国際価格Pwにより、消費者余剰が大きくなるためです。
ただし、この場合でも自由貿易の総余剰□abcEf よりも、△Edcg だけ小さくなります。これはいわば、安全保障上のコスト、保険料(プレミアム)と考えることもできるでしょう。関税による保護貿易による総余剰の減少は、△EdcEf でした。これも保険料とみれば、△Edcg < △EdcEf であり、補助金による保険料の方が安いことになるのです。
◎ 国内の 産業保護は 補助金が 関税よりも 弊害少(少な)し (経済学短歌)
◎ 国内の 生産維持の 政策は 関税よりも 補助金が良し (経済学短歌)