ビッグデータと金融の未来 (SAJ Dec.2018読む)
証券アナリストジャーナルのバックナンバー2018年12月号に特集「ビッグデータと金融の未来」が掲載されている。
2つの意味
ビッグデータと金融というとき、その意味は、大きく次の2つに分けられるだろう。
第1は、巨大IT企業がユーザーの特性を大量に集積、分析し、それをマーケティングなどに利用することによって、あらゆる領域でドミナントなポジションし、収益を拡大する、それによって株式価値、企業価値が巨大化する、ということ。
第2は、ビッグデータを用いてデータと株式や債券などの証券価格との関連を明らかにし、それをトレーディングに活用する、というものである。
巨大IT企業とネットワーク経済
ITの世界はネットワークエコノミーがはたらき、ドミナントな企業が益々ドミナントになっていく。これは経済学の言葉を用いれば、収穫逓増がはたらくためで、生産量を拡大すればするほど限界費用、したがって平均費用が逓減していくため、自然独占が生じることになる。
独占企業の利潤最大化条件は、限界収入=限界費用であるが、ITの世界は限界費用は限りなくゼロに近いため、独占企業は生産量をますます拡大していくことになる。つまり、IT巨大企業はますます巨大化する。
ITの世界が、伝統的産業と異なるところは、巨大IT企業は、価格=限界費用でサービスを提供する、つまりほとんど無料であるため、消費者にとっては望ましいということだ。消費者余剰は最大化されている。ではIT企業はどのように収益を得るかというと、そのネットワークを使って商品を提供する企業の広告や手数料ということになる。そのネットワークを使って財サービスを提供する企業にとっても、それは効率的な消費者へのリーチの手段である。
巨大IT企業はネットワーク外部経済を商品化、収益化することによって収益を拡大していることになる。
サプライサイドで規制が必要
弊害は、巨大IT企業がこの外部経済の商品化において独占的なポジションを獲得することによって、適正価格を超えたプライシングをすることになるだろうということだ。また、間接的にそのコストが消費者に転嫁されれば、独占の弊害が生じることになる。
このような巨大IT企業の規制は主として供給サイドにおけるフェアなプライシングや独占的地位の乱用がないかを監視することにあると言える。
伝統型ビジネスの適正な保護の妥当性
巨大IT企業の独占の弊害をチェック、抑制する必要がある。伝統的なブリック・アンド・モルタル(店舗販売)ビジネスを適度、適正に擁護、保護する妥当性はここにあるかもしれない。
巨大IT企業への対抗策としてバーチャルとリアルをうまく使い分ける事業戦略も有効だろう。
ビッグデータを使った金融サービス
トレーディングへの応用
本誌に掲載されているようなニュースデータや適時開示情報と証券価格との関連性は、トレーディングシステムに活用しうるサービスるといえるだろう。ただし、多くの人が同様のサービスをつかえば、これまでプログラムトレーディングで指摘されてきたオーバーシューティング、アンダーシューティングの弊害が出る可能性もある。
もっともそのオーバー・シューティング、またはアンダーシューティングを察知する金融サービスもでてくるだろうが。
このようなビッグデータを使った金融サービスは主としてテクニカル・トレーディングにあてはまるものでだろう。
バリュー投資が王道であることは不変
どんなにビッグデータを使ったサービスが出てきても、バリュー投資が投資の王道であることに変わりはないだろう。
バリュー投資をサポートする形でのビッグデータの活用に期待したい。
Kota Nakako
5/11/2019