新・利他の経済学-4 The New Economics of Altruism
新・利他の経済学-4 The New Economics of Altruism – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)
外部経済・不経済 External Economy and Diseconomy
外部性とは
経済における外部性の存在は、「利他の経済学(=人類・地球・宇宙の利益最大化)」が今日的視点であることを示しています。外部性とは、取引当事者以外に経済活動の費用(悪影響)や便益(好影響)が及ぶことをいいます。便益(好影響)が及ぶ場合を外部経済、費用(悪影響)が及ぶ場合を外部不経済といいます。
地球環境問題
外部不経済の例として、地球環境問題があります。これは、人類による生産、開発などにより地球環境に負荷をかけることにより生ずるものです。
地球環境問題とは、工業化の進展や自動車の普及に伴って発生する大気汚染・酸性雨、水質汚染・土壌汚染、排出されたフロンガスが成層圏に蓄積することで紫外線と光化学反応を起こしオゾンを破壊するオゾン層破壊、二酸化炭素等の温室効果ガスの放出などによる地球温暖化・海面上昇・凍土融解、狩猟や開発などに伴う生物多様性の減退・生態系の破壊、自然への影響を考えない土地の開発、植林を考慮しない大規模な森林の伐採などです。[出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』]
つまり、価格に環境コストが反映されないために生ずる問題といえます。
外部不経済による過剰生産
外部不経済の問題を表したのが下図です。DDがX財の市場需要曲線、PMCが私的限界費用、MDが限界(外部)不便益を表しています。私的競争均衡点はFになります。F点での均衡生産量はXfです。ここで問題はPMCには限界外部不便益MDが含まれていないということです。
SMCは社会的限界費用で、PMCに限界外部不便益MDを加えたものです。社会的最適均衡点Eは、DDとSMCの交点で決まります。E点に対応する社会的最適生産量はXeです。ここでXe > Xfであることに注意してください。このXf-Xeが超過供給、過剰生産ということになります。環境コストを負担してないがゆえに発生するものです。
外部経済・不経済をあらわしたのが、次の経済学短歌です。
◎ 経済の 外部性とは 価格から もれた便益 不便益なり (経済学短歌)
外部性の問題を解決するには、環境コストを製品価格に反映させる必要があります。これには大きく分けて3つの方法があるでしょう。
シグナリング 情報の提供
第一は、シグナリングによる方法です。生産者が環境対策をして(環境コストを払って)生産した製品であるかどうかという情報を消費者に提供します。消費者は、たとえ価格が相対的に高くても、環境対策をして、つまり環境コストを払って生産した製品を需要することが期待されます。これは市場メカニズムによる自律的な外部不経済の解決になります。
また、政府や第三機関による生産者の褒章制度、環境フレンドリー格付けなどがあるでしょう。これは消費者、コミュニティーへのシグナルとなり、企業イメージの向上などにつながり、差別化要因となると考えられます。
もっとも、これはユートピアではないか、現実性が無いという批判があると思います。消費者は求める機能が同じであれば基本的に安い製品を購入するのが合理的であるからです。消費者は製品の購入にあたっては、冷蔵庫なら冷蔵庫、PCならPCの機能を求めているのであり、その生産にあたり環境対策をしているかどうかは無関係である、という考え方です。
また、フリーライダーの問題が生じるかもしれません。つまり環境コストを支払っていない消費者は、環境コストを支払っている消費者による改善の恩恵を無料で得ることになります。また、環境コストを支払って生産している生産者は、環境コストを支払っていない生産者にマーケットシェアを奪われ、競争劣位に立たされるかもしれません。
しかし、いずれにしても、前述のように環境対策、環境コストをかけて生産しているという情報を消費者、コミュニティーに与えることが重要です。この情報を付与された製品は、差別化された製品になります。冷蔵庫なりPCなりの機能という意味では同じですが、環境コストを支払っているかどうかで異なる製品となります。 そうした企業行動、製品は、やがて、消費者の信頼を得ることにつながることになるでしょう。
政府の規制
第二が、政府による規制です。生産者に環境対策をする、適切な環境コストを払って生産するように規制します。これに反した生産者には環境コストに見合うかそれ以上の罰則、罰金をかけます。政府は利他の経済で重要なプレーヤーです。業界団体による自主規制もあるでしょう。。
ピグー的課税・補助金
政府による規制として、ピグー的課税・補助金があります。これは、外部不経済が存在する場合に、適正な従量税を生産者に課すことにより、過剰生産を解消して、社会的最適生産量を実現する方法です。
ピグー的課税を説明したのが下図です。DDがX財の市場需要曲線、PMCが私的限界費用(供給)曲線です。競争市場均衡はF点になります。ここでの生産量はXfになります。
しかし、X財の生産により外部不経済、不便益が発生しており、これが限界外部不便益曲線MDです。PMCとMDを垂直に足したものがSMCで、これが社会的限界不便益(費用)曲線になります。社会的最適均衡点はE点になります。E点での社会的最適生産量はXeになります。Xf-Xeが過剰生産です。しかし、このSMCは、競争市場での生産者には通常の場合、明示的でないインプリシットな限界費用曲線といえます。
この社会的不便益を生産者に明示的にし、社会的最適点であるE点を達成するために政府が介入し、重量税Tを課します。これがピグー的課税です。
外部不経済とピグー税についての経済学短歌です。
◎ 外部的 不経済には ピグー税 市場の失敗 是正を狙う (経済学短歌)
外部経済が存在する場合には、適正な補助金を与えます。図示は省略しますが、補助金により過小生産を解消して、社会的最適生産量を達成させようとするメカニズムは同様です。
◎ 補助金で 外部経済 社会的 過小供給 是正をはかる (経済学短歌)
◎ 外部なる 経済便益 あるときは 助成金にて 供給(キョウキュー)うながす (経済学短歌)
当事者間の交渉:コースの定理
第三は、外部不経済を及ぼす経済主体と、外部不経済を被る経済主体の自発的な交渉により、外部性を解決させるものです。これは、コースの定理とよばれるものです。外部性の内部化といえるでしょう。コースの定理の前提条件としては、①限界的便益・不便益が定量化できること、②権利関係が明確であること、③交渉の費用がゼロであること、が必要になります。
しかし、そもそも外部経済・不経済の問題で、権利関係を明確化できるか、という問題があるといえます。
◎ コース定理(テーリ)は 市場の失敗 外部性 当事者間で 交渉解決 (経済学短歌)
◎ 外部性 コースの定理は 当事者(トージシャ)間 交渉可能 ならば使える (経済学短歌)