2024 地価公示レビュー 富山5-15 商業

中湖 康太

2024 地価公示レビュー
富山5-15 商業

富山市の印象

2023年8月に富山市を訪れたが、JR富山駅周辺は、県庁所在地の中心的商業地域であり、街並みも整然としており、店舗事務所ビル、ビジネスホテルも豊富で、賑わっていた。事前予想よりも良好な印象を受けた。

商業地平均は前年比横ばいで出遅れ 駅周辺商業地は強い

「令和6年地価公示の概要」(国土交通省、以下、R6概要)によれば、富山県の商業地平均はマイナス・トレンドから、前年比横ばいとなっている。商業地の全国平均は+3.1%なので、出遅れ感、相対的弱さはある。ただし、富山駅周辺の立地に優れた本件では、平成26(2014)より、前年比プラスが続いており、本年も+5.4%と好調だ。不動産は立地であることがあらためて知れるところだ。

市民の足は路面電車

富山市の市民の足は、地下鉄ではなく路面電車だ。現代的でお洒落なトラム。富山駅から乗り、街並みをみながら楽しんだ。「富山駅と富山市中心市街地を巡回する環状線は、まちなかを一周約28分で巡ることができます。環状線の車両には、先進的、現代的なデザインの『セントラム』等が採用され、低床で乗りやすく、大きな窓からは雄大な立山連峰や富山城址など、富山ならではの街並みを楽しむことができます」とある。富山駅から20分圏内!『富山市内』観光おすすめ7選 | 観光情報特集「TOYAMA STYLE」 | VISIT富山県 (visit-town.com)

インバウンド人気 全国第32位

観光都市として富山県をインバウンド人気でみると、「2019年(コロナ前)の 富山県への訪日外国人宿泊者数はコロナ前(2019年)は319,180人泊であり、全国第32位」富山県のインバウンド需要 | 訪日ラボ (honichi.com)

黒部渓谷

富山県といえば、観光スポットとして立山黒部アルペンルートがあるが、今回は富山県のインバウンド人気観光スポットランキング のトップ10に入っている黒部峡谷トロッコ電車を視察した。富山市から車で55分程で、出発点の宇奈月駅に到着する。終点の欅平駅まで渓谷をのぼり片道約120分。トロッコ電車から見る黒部峡谷は絶景。トロッコ電車にはアジア系だけでなく欧米系外国人も数多くいた。

元々は、電源開発のための資材運搬用の専用鉄道だったが、現在は、観光用列車として運営されている。昭和26年から関西電力に引き継がれた。運営する黒部峡谷鉄道㈱は、関西電力グループの連結子会社。

日本海側屈指の工業集積

富山県は、日本海側屈指の工業集積で、第2次産業のウエイトが大きいものづくり県・富山ともいわれる。大正時代から豊富な水資源と低廉な電力を活用した化学や紡績産業が立地し、戦後は新産業都市構想を背景にアルミなどの金属や機械産業の集積が進んだ。近年、これらの古くからの企業が電子材料分野で新たに事業展開するとともに、県外からの企業の新規立地も進むなど電子部品・デバイス・電子材料産業もある。富山県/日本海側屈指の工業集積 (pref.toyama.jp)

円安メリットの期待

今後、円安により、県外海外企業の進出など工業集積がリカバリーし、観光でインバウンド需要が高まれば、相乗効果による好循環が形成されることも期待されるかもしれない。最近、円安によるデメリットが強調され、なりふりかまわない為替介入が行われているが、円安によるメリットもあるのではないだろうか。

富山5-15 商業 公示価格 585,000(円/㎡) 対前年変動率 5.4(%)

概要
富山5-15
調査基準日 令和6年1月1日
所在及び地番:  富山県富山市桜町2丁目1番5
住居表示:  桜町2-1-8
用途区分:  商業地
交通施設、距離:  JR富山駅、320m 徒歩4分
価格(円/㎡):  585,000(円/㎡)
対前年変動率(%):  5.4(%)
地積(㎡) : 154(㎡)
形状(間口:奥行) (1.0:2.0)
利用区分、構造 建物などの敷地、SRC(鉄骨鉄筋 コンクリート造) 5F B1
利用現況: 店舗兼事務所
給排水等状況: ガス ・ 水道 ・ 下水
周辺の土地利用現況: 中高層小売店舗、飲食店が多い駅前の商業地域
前面道路の状況:  東 36.0m 市道
都市計画区域区分: 市街化区域 商業地域、準防火地域
建蔽率(%)、容積率(%) 80(%) 500(%)

評価書を読む

下記の評価書A,Bとも、駅周辺一体の再開発事業による繁華性の向上、堅調の需要、地価上昇傾向を指摘している。県外資本の参入もある。富山県全体では全国比で出遅れ感があるが、駅周辺商業地だけは別格でプレミアム地域であるといえる。

  • 評価書A: 585,000 円/㎡ 対前年変動率+5.4 % 

地域要因の将来予測: 駅周辺一帯は再開発事業等により店舗・ホテル等が整備されたことで繁華性が増大し、今後も発展が見込まれること等から需要は堅調である。このため地価は上昇しており、この傾向は今後も続くと予測する。

市場の特性: 同一需給圏は富山市の中心部及びその周辺の商業地域。需要者は店舗・事務所利用を目的とした事業者であるが駐車場利用を目的とした需要も見られる。駅前及びその周辺一帯は再開発事業等により店舗・ホテル等が整備されたことで人通りが多くなり繁華性が増大している。周辺でホテルの出店計画等もあり今後も発展が見込まれるため需要は堅調である。出店規模が様々なことから需要の中心となる価格帯は見いだせない。

試算価格の調整・検証及び鑑定評価額の決定の理由: 比準価格は実際に取引された不動産情報を基に試算しているため実証的で信頼性が高い。一方収益価格は土地価格に見合う賃料水準が賃貸市場で形成されていないこと等から比準価格より低位に求められた。不動産市場においては市場の動向を反映した実証的な比準価格を指標として取引が行われていること等から、比準価格を重視し収益価格を参考にして、代表標準地の価格水準からの検討も踏まえ、鑑定評価額を上記のとおり決定した。

取引事例比較法による比準価格: 595,000 円/㎡
収益還元法による収益価格: 212,000 円/㎡

[一般的要因][地域要因][個別的要因]:景気は回復基調にあるが海外情勢や物価上昇等が懸念される。地価の上昇は中心部からその周辺一帯により拡大しており改善が続いている。標準地の周辺でホテルの建設を目的とした事業計画が進められている。個別的要因に変動はない。

  • 評価書B: 585,000 円/㎡ 対前年変動率+5.4 %

地域要因の将来予測: 平成30年の再開発商業施設開業及び大手ビジネスホテルの進出で富山駅からの連たん性が高まり、飲食店の需要が底堅いため地価は上昇傾向で推移すると予測される。

市場の特性: 同一需給圏は富山市中心商業地域一帯。需要は地元企業並びに投資家が中心で富山駅周辺において県外企業の参入もある。市況は小売業が郊外型店舗及びインターネット通販との競合で低迷している。飲食店及びホテル業は富山駅及び総曲輪周辺で回復が見られる。その他の地域は駐車場及び居住目的の需要があり堅調。地価は富山駅周辺が上昇、アーケード街が下落、その他が微増と用途により傾向が異なる。土地の中心価格帯は規模の開差が大きく特定できない。

比準価格は価格形成要因が類似し、代替競争関係が認められる富山市中心商業地の取引事例を採用して試算を行った。収益価格は、建築費高騰で建物投資に見合う賃料が徴収できないため低位に求められた。本件においては中心商業地の実需を反映した取引事例より求めた比準価格を重視し、収益価格を関連づけ、代表標準地との検討を踏まえ、鑑定評価額を上記の通り決定した。

引事例比較法による比準価格: 595,000 円/㎡
収益還元法による収益価格: 226,000 円/㎡

[一般的要因][地域要因][個別的要因]:富山駅周辺は新幹線開業後も連続立体化事業等インフラ整備が進み環境が向上し、飲食店、ホテル、マンション立地可能な地域の需要が高まっている。富山駅とオフィス街の間に存し、飲食店及びホテル立地可能な地域であり需要が堅調で、県外資本による開発計画もあり発展的推移が見込まれる。個別的要因に変動はない。

鑑定評価書 (mlit.go.jp)

補足)
評価書Aの収益価格算定での最有効使用の想定建物
想定建物の状況
①用  途 店舗兼事務所
②建築面積 317.00(㎡)
③構造・階層 S5 (鉄骨造5階建)
④延床面積 1,585.00(㎡)
⑤公法上の規制等 略
⑥想定建物の概要 1~2階店舗:フロア貸し、3~5階事務所:個別貸し
⑦有効率  80.0 %の理由 この種の建物としては標準的なため
建物等の初期投資額 348,000,000 円 (算定根拠)
= 213,000 円/㎡ ×  1,585.00 ㎡ × (100% + 設計監理料率3.00 %)

建築費 鉄骨造5階建 
平米単価 213,000円/㎡ x 103% = 219,390円/㎡ 
坪単価 704,133円/坪 x 103% = 725,257円/坪 

以上

Kota Nakako

2024/05/27

 

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