時代に応じて変化するアナリストの視点
時代に応じて変化するアナリストの視点 ー 長期投資の観点からこそ大事になるアナリストの役割」
(証券アナリストジャーナル 2016年6月号、JPモルガン・アセット・マネジメントRDP運用本部投資調査部マネジングディレクター忍足大介氏)
忍足氏は、四半期決算、コーポレートガバナンス、スチュアードシップコードの導入によるフェアディスクロージャーの強化により、証券アナリストの情報収集活動に制約が加えられているとした上で、しかし、これはマイナスなことばかりではなく、証券アナリストは原点に戻ることを求められており、その良い機会になっているとし、「長期投資から得られるリターンに必要な視点に基づいた行動へとかじを切る局面ではなか」と述べている。
「長期投資から得られるリターンに必要な視点に基づいた行動」とは、その企業及び証券の分析により、その本源的価値を推定し、現在の証券価格がその本源的価値から乖離しているかどうか、乖離しているとすればどの程度乖離しているのか、乖離しているとすればその理由は何か、本源的価値に収束していく誘因があるか等を分析することにあると私(中湖)は思う。
粗な情報ギャップを埋めるのはアナリストの本質的機能ではない
私の経験からも、年2回決算の時には、決算発表までに会社取材により経営状況を把握して、それを投資家に伝えることが、アナリストの役割の1つであったことは確かであった。取材した上で、現況が会社予想に対してどういう状況にあるか、ということをアナリストが判断して、投資家に伝えるというものである。しかし、当時から感じていたことであるが、これは証券アナリストとしては、副次的な機能であると思っていた。これを投資家が求めていたことは事実である。確かに、四半期決算が導入されたことにより、証券アナリストのこの副次機能の必要性が著しく低下したことは確かであろう。
経営者の株主重視の姿勢、資質を数字におとす
私が投資銀行で証券アナリストをしているとき最も重要な機能の1であると考えていたのは、経営者と直に会って、その経営者の資質を感じ取り、それを企業の本源的価値の分析に結び付ける、忍足氏の言葉を使えば「長期投資の観点から」の分析である。その経営者の株主価値に対する意識はどの程度か、経営に困難な状況が生じたときに、その経営者はどのような行動をとるだろうか、企業文化等。証券アナリストの役割は、いわゆる統計家(stastician)のデータ分析ではなく、定量的、定性的な情報(それには感じたこと、直感も含む)を数字におとし、企業価値の分析に結び付けるというものである。
昨今は、アナリストが個別に経営者と会うことも選別開示のひとつとして制限される傾向にあることは確かであろう。経営者なりインサイダーが非公開の重要情報(material nonpublic information)を特定者に開示した場合、その情報を得たものは、その情報を基に証券の売買を行ってはならず、また特定者に開示した経営者、インサイダーは、その情報を公に(public)開示しなくてはならない。そのため、米国では、決算説明会での状況、経営者とアナリストの質疑応答を含め、音声(audio stream)や動画(video stream)で開示することも多い。
変らないアナリストの役割
忍足氏の小論のタイトルは、「時代に応じて変化するアナリストの視点」となっているが、その真意は「時代が変わっても変わらないアナリストの視点」であると思う。それが忍足氏の言う「長期投資の視点から大事なアナリストの役割」であり、私流に言えば「企業の本源的価値の分析に基づく証券アナリストの意見(オピニオン)の提供」であろう。それはバフェットの証券分析に基づく投資法に通じるものであると思う。
以上
2016.6.20