投資家ケインズ-7 Investor Keynes
ケインズの累積投資収益
ケインズの投資収益の累積を分野別にみてみよう。Table-4に示されたケインズの投資活動は1920年から1945年の25年におよぶので貨幣の時間的価値を考慮する必要がある。これについては、これまで同様、便宜上Currency converter: 1270–2017 (nationalarchives.gov.uk)により、ポンドの現在価値(2017年)に換算した(下図; 購買価値ベース概算)。
証券投資からの収益が全体の84% 為替、商品15%
ケインズの投資による資産形成において最も貢献したのは、証券投資であり、累積の投資収益の約84%に及んでいる。全体の内訳は、①ポンドキャピタルゲイン35%、②ポンド配当30%、③ドルキャピタルゲイン13%、④ドル配当6%、⑤商品11%、⑥為替4%、⑦その他1%。
インカム重視の投資を良しとし、一般理論において、美人投票になぞらえ、短期的な売買が主体と米国ニューヨークの証券市場を批判したケインズが、実際には売買で一番儲けたというのは面白い。前述したように、一般理論というのは、ある意味で矛盾した表現に満ちた書であるとも言える。特に理論ではなくケインズのオピニオンを示したところについて。
一般理論が難解で、一筋縄ではいかない書といわれるのは、ある意味でケインズの二律背反をあらわしたものだから、と言えるかもしれない。
それを象徴するのが 一般理論の序文の次の表現だ。
「ここに苦心して示したものは、極めて簡単で明らかであるべきものだ。困難は、新しいアイデア(考え方)にあるのではなく、伝統的なアイデアから脱却することだ。それは、私たちのほとんどが習い親しんだものであり、私たちの心の隅々まで染み込んでいるからだ」
“The ideas which are here expressed so laboriously are extremely simple and should be obvious. The difficulties lie, not in the new ideas, but in escaping from the old ones, which ramify, for those brought up as most of us have been, into every corner of our minds.”
研究と投資による実践
ケインズの当初の投資活動は、為替、商品であった。ケインズの研究テーマは、数学(確率)から、貨幣論、そして「雇用・利子および貨幣の一般理論」へと移行していった。この他、ケインズは1920年代に商品市場についてかなりの調査資料を作成している。つまり、ケインズは、アカデミックな研究に平行して、金融証券市場において投資という形で、応用、実践しているのがわかる。
そして、生涯最高の投資所得を1936年と1937年に上げた。現在価値(2017年時点)にして、各575万ポンド(約8.3億円)、598万ポンド(約8.7億円)に相当する。極めて粗い概算だが。一般理論は1936年2月にMacmillanより出版された。ケインズの経済理論の熟成、完成と共に、投資収益も最高となった。これは単なる偶然だろうか。
TBC
By Kota Nakako
2023/5/5
投資家ケインズ-7 Investor Keynes – 株式会社ゼネラル・カラー・サービス 中湖康太 経済文化コラム (general-cs.tokyo)