アナリスト出門甚一の冒険 6
作: 三島 真一
シクリカル
出門は、コモディティセクターの一産業分野である紙パルプ業界のセクターレポートと業界トップの新パシフィック製紙のレポートをリリースした。足元の紙需要は極めて強く、新パシフィック製紙への投資判断は「BUY」であった。紙パルプセクターはシクリカル(景気敏感)セクターといわれ、景気が拡大すれば、需給が逼迫、原材料であるパルプそして紙製品価格が上昇する。それが誘因となり、新規供給が増加する。景気がピークアウトすると、需給が緩み、価格に下落圧力が加わる、という循環を繰り返すセクターであった。
紙パルプ製品への需要はほぼ経済成長とともに増加するとされ、それが需要予測の根拠とされていた。デジタル革命によるペーパーレス社会の到来を危惧する声もあったが、全体で見れば、紙需要が経済成長と共に成長する従来のトレンドに大きな変化は無かった。
出門は、欧米からの機関投資家に日本の紙パセクターの稼働率が上昇していること、パルプ価格の上昇と共に、紙製品の価格も製紙メーカーによる値上げが浸透してきていることを説明した。業界最大手の新パシフィック製紙の業績については前年比50%強の大幅増益を予測していた。会社予想は前年比30%の増益であった。
業界主要企業6社の業績予想、そして株価評価を行った。新パシフィック製紙は、価格上昇の最も顕著な洋紙の需要拡大の恩恵を大きく受ける立場にあった。予想PERは業界平均よりも低く、割安感があると判断した。時価総額も1兆円を超え、流動性も高く大手機関投資家にとって、景気敏感株としての魅力は高いと言えた。
このレポートを発表した後、株価は好調であった。景気の回復を反映して、市場平均株価も本年第1四半期に大幅に上昇した。第2四半期に入った現在も、欧州債務危機、中東での国際紛争への懸念から調整する局面もあったが、それらが深刻化する気配が減ずると、株価は回復した。
出門のレポートで、UPG証券のクライアントからの新パシフィック製紙への買いも引き続きが入っていた。前年第4四半期から本年第1四半期にかけての株価上昇が強かったこともあり、利食い売りとみられる売りも散見された。
UPGリサーチの世界の紙パセクター担当アナリストのコンフェレンス・コールが第3四半期の始めに行われた。そのコンフェレンス・コールでは、足元の強い紙需要が確認された。同セクターの先行指標であるパルプ価格が過去最高値を記録しており、その結果、紙の原材料であるパルプ、製品である新聞紙、洋紙、段ボールの生産設備の新設・増設が発表されていた。UPGリサーチの全世界の需給予測によれば、中期的な需給緩和が懸念された。新設・増設による供給増とともに、強い需要を背景に在庫積み増しが起こっていた。
足元の需要は強いものの、インフレ期待が生じつつあること、中央銀行による金融緩和の終焉、金利引上げのリスクを意識すべきタイミングにあるとUPGのエコノミストは表明していた。
第3四半期の半ば、足元の需要は極めて強く、業績も好調だった。しかし、出門は、再来期の業績予想を引き下げ、新パシフィック製紙の投資判断を「BUY 」から「HOLD 」に引き下げた。
(2015.2)