アナリスト出門甚一の冒険 3
作:三島 真一
投資銀行業界の掟(おきて)
ジェームスは、一束のリサーチレポートを出門に渡して言った。
“Jinichi, these will be helpful to you. And there will be a Global Commodity Sector Research conference call tonight with New York chaired by Michael Richardson, Global Head. I would like you to join it.” (甚一、これは役に立つだろう。それから、今晩、ニューヨークとグローバル・コモディティ・セクター・リサーチのコンフェレンス・コール(電話会議)がある。グローバル・ヘッドのマイケル・リチャードソンがまとめ役だ。参加して欲しい。)
それからジェームスは、UPGのコモディティ・セクターのリサーチの方針について説明した。その内容は概ね次のようなものだ。
UPGのコモディティ・リサーチは、コモディティのグローバルな需給予測と関連セクターの企業分析に分けられる。グローバルな需給予測は世界のアナリストと情報交換した上でニューヨークのリサーチ・チームが担当する。各国のアナリストはカンパニーリサーチを担当する。クライアントは、大きく3つに分けられる。それらは、機関投資家、ヘッジファンド、プライベート・エクイティである。
「コモディティ価格は、世界の需給で決定される。ニューヨークとのコンフェレンス・コール、これが重要なわけだ。24時間体制とはこのことだな」と出門は思った。
“Delighted.” (喜んで)と出門はジェームスに言った。それは、想像以上のシビアな業界に入ったのだな、という動揺をセルフ・コントロールするための言葉でもあった。
ジェームスは続けた。
“Naomi Murakami from Compliance will contact you so you can be compliant with investment banking industry regulations.” (それと、法務部門の村上直美さんが君にコンタクトするだろう。投資銀行業界の法令に準拠するよう必要な説明と手続きをするためだ)
投資銀行業界は、金と情報を扱う産業だ。情報というのは物質的な製品などと異なり、形が無いだけに一刻一秒が利害を左右する代物だ。UPGは顧客利益第一を会社の10のビジネス原則(UPG’s 10 BUSINESS PRINCIPLES)の第一としている。情報を自己の利益を優先して扱ってはけない。有名無実ではいけない。自己規律が必要だ。それに反した場合、厳しい罰則が待っていることになる。
(注)この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません