なぜヘッジファンドはアンダーパフォームしたのか?

2016-06-08

なぜヘッジファンドはアンダーパフォームしたのか?
“Why Have Hedge Funds Underperformed?” by Hossein Kazemi, Alternative Investment Analyst Review Q2 2016

Alternative Investment Analyst Review Q2 2016に掲載されている興味深い論文。筆者は同誌編集長のH. カゼミ氏。

「ヘッジファンドのパフォーマンスがこのところかんばしくない、ということをよく耳にする」とし、その状況を7つのマルチファクターモデルの重回帰分析によって検証している。ヘッジファンド全般のパフォーマンスを表す指数としてCISDMを用い、S&P500をファクターのひとつとしてそのパフォーマンスを分析している。同モデルのR-squaredは78%と高い説明力を有しているといえる。

CISDM指数は、S&P500に対して、2009年1月から本年1月まで月次リターンで平均0.87%アンダーパフォームしている。ただし、CISDMの月次リターンの標準偏差は、S&P500の月次リターンの標準偏差の53%と低くなっている。

言うまでもなく詳細は同論文を読んでいただく必要があるが、カゼミ氏の分析から得られる示唆は、以下のようにまとめられるかもしれない。

1.ヘッジファンドは平均して、リーマンショック後、S&P500をアンダーウェートし、キャッシュポジションを高めリスクを抑えた運用をした

2.ヘッジファンドのパフォーマンスを評価するベンチマークとしてS&P500を使用することは妥当なのか

3. CISDMは様々なストラトジーをとるヘッジファンドの平均であり、より優れたパフォーマンスを得るには上位25%のマネージャーに投資する必要がある

4.とはいえ、上位25%の優れたファンドマネージャーは戦略によっては少数であり、資金が集中すれば、収穫逓減(diminishing return)を招くことになるかもしれない

私(中湖)の感想は以下の通りである。

1.カゼミが指摘するように、S&P500をベンチマークとするのは理論的にも間違っている。ただし、実務の世界ではS&P500に対してのヘッジファンドのアンダーパフォームが強く感じられたのは事実であろう。結果論としては、S&P500、つまり株式をオーバーウェートしておけばリターンは大幅に改善したのである

2.カゼミの分析で、触れられているが、十分検証されていないのが、シャープレシオのようにリスク当りのリターンであり、この点から再評価する必要がある

3.金融危機(リーマンショック)前後の状況においては、株式は勿論、全てのリスク資産が下落したし、リスク資産の期待収益が大きく下落した。多くの投資家は相対リターンではなく、絶対リターンを重視し、よりリスク回避的になりキャッシュポジションを高めたのである

4.ヘッジファンドには、グローバルマクロ、エクイティーロングショート、イベントドリブン等様々なストラトジーがあり、ヘッジファンド全体の平均を見ることはあまり意味がない

くりかえしになるが、見るべきはリスク当りのリターンであろう。また、伝統的なファンド、ヘッジファンドを問わず、投資の基本はバリュエーションであり、バリュー投資であると思うのである。

以上

2016.6.8

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